東日本大震災の被災者及び原発事故の被害者の生活再建と「人間の復興」を求める決議
2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災は,東北をはじめとする東日本に甚大な被害をもたらした。福島県内でも,同年11月末現在で,死者1,933人,行方不明者68人の人的被害が生じるなど,甚大な被害が生じた(福島県災害対策本部調べ)。さらに,東日本大震災に引き続いて発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,「原発事故」という。)では,浜通りを中心とする避難対象区域に居住していた約9万人の県民が住み慣れた地域を離れて着の身着のまま避難することを余儀なくされ,いわゆる「自主避難者」も後を絶たない。避難等指示対象区域では,震災前に約8000の事業所が存在し,約6万人が就業していたが,それらの事業所でも,多くは事業再開の目途がついておらず,大量の失業者が発生している。大震災に見舞われた被災者と原発事故の被害者(以下,両者を合わせて「被災者」という。)は,経済的にも厳しい状況に置かれており,住居や収入の確保など,生活再建の目途がたたない被災者も多数に及んでいる。
被災者に対しては,義援金支給や東京電力による原発事故「補償金」(以下,「原発事故賠償金」という。)の支払も始まっており,当座の生活資金を義援金や原発事故賠償金に頼らざるを得ない被災者も多いが,義援金は各人への分配額が少なく,また,原発事故賠償金も,国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の示した目安は必ずしも十分なものではなく,長期間にわたる避難生活の中で生活再建を果たすには不十分である。阪神・淡路大震災後に創設された被災者生活再建支援法に基づく支援金も,1世帯300万円が限度とされており,これで住宅再建を果たすことはできない。生活保護に関しても,南相馬市の生活保護大量停廃止問題に典型的に見られるように,義援金や原発事故賠償金を収入と見なされ,停廃止される例が報告されているなど,必ずしも「最後のセーフティネット」としての機能を果たし得ていない。
このように,被災者の生活再建が進んでいない理由の第一は,生活再建支援の制度自体が不十分であることが挙げられる。例えば,上記のとおり被災者生活再建支援法に基づく支援金の上限額は300万円であり,支援金で住宅再建を果たすのは不可能である。政府は,これまで「私有財産制の下では,自然災害による損失は被災者の自己責任」としてきたが,自然災害による住宅喪失は,生活基盤そのものの破壊であり,個人にはいかんともしがたいものである。支援金上限額の引き上げとともに,災害救助法に基づく被災者への現金給付の活用が必要である。また,二重ローン問題についての有効な対策もとられていない。雇用保険や雇用調整助成金の特例支給や支給期間延長等も,避難生活の長期化に見合ったものにはなっていない。第二には,生活再建支援のための予算措置が十分でないことが挙げられる。東日本大震災の復興予算は,本年度第三次補正予算までで約18兆円の規模に及ぶが,このうち,直接に被災者の救援や生活再建支援のために使われる予算は1兆円程度に過ぎない。
関東大震災にあたり,東京商科大学(現・一橋大学)教授であった福田徳三は,「私は復興事業の第一は,人間の復興でなければならぬと主張する。人間の復興とは,大災によって破壊せられた生存の機会の復興を意味する。今日の人間は,生存する為に,生活し,営業し労働しなければならぬ。即ち生存機会の復興は,生活,営業及労働機会(此を総称して営生の機会という)の復興を意味する。道路や建物は,この営生の機会を維持し擁護する道具立てに過ぎない。それらを復興しても,本体たり実質たる営生の機会が復興せられなければ何にもならないのである」と述べ,「人間の復興」という理念をはじめて提唱した。その後,東日本大震災に至る約90年間に,被災者の生活再建については,ある程度の施策がとられるようになっている。しかし,上記のように,生活再建支援の制度も,予算措置も十分でないため,長期間にわたって生活再建の目途がたたず,被災者の貧困が深刻化するおそれが強い。被災者の生活再建が果たされなければ,道路や公共施設が復興しても,そこに戻って暮らす人間抜きの復興となってしまうことは,明らかである。今こそ,「人間の復興」という視点に立ち,各種の生活再建支援施策の充実をはかる必要がある。
当会は,被災者の生活再建と「人間の復興」を実現する見地から,国及び被災地の地方公共団体に対し,以下の施策の実現を強く求めるものである。
1.災害救助法に基づき,被災者の生活再建のための現金給付を含む支援を充実させること
2.災者の生活基盤たる住宅の再建のために,
(1)被災者生活再建支援金の支給上限額を少なくとも2倍以上に増額すること
(2)被災地の土地について,住宅ローンの被担保債権額を上回る額で買い上げるなど,既存住宅ローンの解消のための施策を実行すること
(3)被災者向けに良質の公営住宅を建設し,一定期間居住した被災者に払い下げるなどの住宅確保策を実行すること
3.震災・原発事故による失職者への雇用保険支給期間を最低でも2年以上に延長すること
4.被災者に対し,例えば,インフラ復旧,被災地医療,福祉など広範囲の分野において就労の機会を提供し,従事者に対して生活再建に十分な額の賃金を支払うなどの公的就労制度を充実させること
5.被災者・避難者が再就職したり元の居住地に帰還できるまでの間,資産保有等の要件を緩和した被災者生活保護制度を創設し,その経費は全額国が負担すること。
以上、決議する。
2012年(平成24年)02月18日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘