商品先物取引法の施行規則改正による不招請勧誘禁止の緩和に反対する会長声明
商品先物取引法の施行規則改正による不招請勧誘禁止の緩和に反対する会長声明
1 経済産業省及び農林水産省は,2014年4月5日,商品先物取引法施行規則の改正案(以下「本改正案」とい
う。)を公表し,これをパブリックコメントに付した。
本改正案は,商品先物取引法施行規則第102条の2を改正することにより,ハイリスク取引経験者に対する勧 誘及び熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満である場合で,基本契約から7日間を経過し,かつ, 取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る。)を不招 請勧誘(顧客の要請によらない訪問・電話勧誘)禁止の適用除外として,不招請勧誘禁止規制を緩和しようと するものである。
2 しかし,そもそも商品先物取引についての不招請勧誘禁止規制は,悪質な商品先物取引業者が,不意打ち的 な勧誘や執拗な勧誘により,顧客の本来の意図に反した取引に引き込み,多くの被害を生んできたという歴史 的事実を踏まえ,2011年1月施行の商品先物取引法により,ようやく実現したものである。
そして,商品先物取引についての不招請勧誘禁止規制の導入以降,商品先物取引に関する相談や被害件数は 著しく減少しており,不招請勧誘禁止が被害を防止する有効な方策であることは明らかとなっている。
また,経済産業省産業構造審議会商品先物分科会は,2012年8月に「産業構造審議会商品先物取引分科会報 告書」を公表し,そこでは「同規制の施行後1年半ほどしか経過しておらず,引き続き相談被害の実態を見守 りつつ,できる限り効果分析を試みていくべき」として,当面,規制を維持することが確認されるとともに, 「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹 底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えら れるなどの状況を見極めることが適当である。」とされたのである。
更に,内閣府消費者委員会は,2013年11月12日付け意見書において,「不招請勧誘禁止規制の存在によって 市場の活性化が阻害されるとは言えないことが明らかである」と分析しており,改正積極論者が主張するとこ ろの市場活性化対策は不招請勧誘禁止規制を緩和する理由にはならないというべきである。
かかる不招請勧誘禁止規定の導入経緯やその後の状況,上記産業構造審議会商品先物分科会の取り纏め内容等 からすれば,規制から僅か3年しか経過しておらず,他の有効な規制措置により再び被害が拡大する可能性が 少ないともいえない現時点において,不招請勧誘禁止規制を安易に緩和することは不当であり,到底認められ ない。
3 特に,70歳未満の個人顧客に対し,7日間の熟慮期間を設け,取引のリスク性に対する理解度の確認さえ行え ば,不招請勧誘禁止の例外として認めるとの本改正案は,極めて問題である。熟慮期間を設けた契約は,かつ ての海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律に熟慮期間を設ける類似規定があり,また,理解度 等を書面で確認する方法も,過去に類似の例をいくつも置きながらいずれも顧客保護のために全く機能してい ない。かかる事実に鑑みれば,本改正案は,70歳未満に対する不招請勧誘を全面解禁するに等しいものであっ て,到底許されるべきではない。
なお,本改正案では,70歳以上の場合は不招請勧誘では契約できないとしてはあるものの,商品先物取引業 者が70歳以上の顧客に対して,勧誘目的で電話又は訪問すること自体を禁止するという規定の仕方を取ってお らず,勧誘目的で電話又は訪問を行ない,当該顧客が70歳以上であった場合には,当該顧客から申出があった ことにさせて,商品先物取引を開始させるといった潜脱行為が行われることは,容易に予想されるところであ る。
4 また,本改正案は省令の改正であるところ,商品先物取引法施行規則で不招請勧誘禁止の適用除外とできる のは,その勧誘が「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない」場合に限られている(商 品先物取引法第214条第9号括弧書き)。
しかしながら,今回の熟慮期間の設定,理解度の書面による確認のいずれもが,上記のように,過去の経験 に照らし顧客等を保護するのに実効性がないものである以上,本改正案において解禁される不招請勧誘は, 「委託者の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれがない」ものとはいえず,商品先物取引法による委任 の範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。
5 よって,当会は,商品先物取引法の施行規則改正による不招請勧誘禁止の緩和に強く反対する。
2014年(平成26年)5月23日
福島県弁護士会
会長 笠 間 善 裕