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「自然エネルギー100%」による持続可能なエネルギー社会実現に向けた施策を求める決議

1 原子力及び化石燃料利用の問題点
2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により,原子力の利用は,一旦重大な事故が発生すれば,広い地域に,避難,被ばく,財産や営業,雇用等様々な面における甚大な人権侵害を発生させ,かつ,その人権侵害は極めて長期的に継続するものであることが明らかとなった。
他方で,化石燃料の利用は,人為起源の温室効果ガス排出のうち最も大きな原因であり,気候変動のリスクを増大させ,人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性を高めることが明らかにされており(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年9月から2014年11月にかけて公表した第5次評価報告書等による),今後の社会に必要なエネルギーの中心ではあり得ない。
甚大かつ長期的に継続する人権侵害を招きかねない原子力や,将来の世代に重大な悪影響を与える化石燃料の利用を継続することは,我々の世代が将来の世代に負担を課するものであり,ひいては将来の世代における人権の社会的基盤を失わせるものである。
2 自然エネルギーを代替エネルギーとして,持続可能なエネルギー社会を構築する ことは,人権に関わる問題である
環境省が行った委託事業等によれば,わが国には,近年の発電設備容量,年間電力消費量を大きく上回る自然エネルギー(太陽光,風力,中小水力,地熱等。「再生可能エネルギー」ともいう)発電の導入ポテンシャル,導入可能量があることが示されている。
更に,自然エネルギーの熱利用(太陽熱,地中熱,バイオマス熱等),省エネルギー技術,水素の製造・利用技術等が進歩し,普及することなどを総合すれば,今後社会に必要なエネルギーを,自然エネルギーにて賄っていくことが十分に可能であるから,最終的には社会に必要なエネルギーは全て自然エネルギーから生み出すこと(即ち「自然エネルギー100%」)を目指さなければならない。
我々は,自然エネルギー利用を飛躍的に拡大させて早期に持続可能なエネルギー社会を構築することが,人権に関わる問題であり,将来の世代に向けた我々の世代のなすべき責任であることを自覚して,あらためて積極的に取り組んでいく必要がある。
また,原発事故の被害を最も大きく受けた福島県は,自然エネルギー利用の取り組みによる復興を目指しているところであり,福島県及び県内各市町村は,率先して持続可能なエネルギー社会の実現に向けた施策を進めていくべきである。
3 福島県及び県内市町村において進めるべき自然エネルギー関連施策
⑴ 自然エネルギーのより具体的な導入計画を策定すべき
福島県は,2012年(平成24年)3月に策定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」において,「2040年頃を目途に,県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出す県を目指す」としている。
実際にこの目標を実現するためには,福島県は更に県内市町村と協議して,県内の自然エネルギーの市町村別・種類別のより具体的な導入計画を策定し,その導入計画を実現するための必要十分な国及び福島県が行うべき施策並びに予算の検討を率先して進めるべきである。
そのうえで,必要な施策のうち,固定価格買取制度,電力系統の広域化及び中立化,自然エネルギー利用施設設置にかかる規制緩和に関する施策など,国が行うべきものについては,福島県として国に対して積極的に実施を求めていくべきである。
⑵ 地域主体の自然エネルギー利用の取組に対する助成及び支援を進め,また,自ら自然エネルギー事業に取り組むことも検討すべき
自然エネルギーは自然界に広く薄く分布し,輸送や貯蔵に適さないこと等から,その地域において,分布状況に即して利用していく必要がある。
そのためには,地域の状況を十分に理解している地元住民,地元企業,自治体等が主体となって自然エネルギーの利用に取り組むこと(地域の資金及び地域の意思決定に基づき,地域の自然エネルギー事業が計画,実践され,自然エネルギー事業の恩恵が地域にもたらされること)が有効である。このような地域主体の取組は,地域の産業の活性化や新たな雇用の増加,大規模災害発生時のリスクの低減,分散化などにもつながる有益なものである。
地元住民及び地元企業に対する助成並びに支援の施策については,自治体が独自に実施することが可能であるから,福島県及び県内各市町村は,特にこれらの地域主体の取組を対象とした助成及び支援制度を充実させるべきである。
また,エネルギーを供給することは公益的意義を有するものであるから,福島県及び県内各市町村は,地域の状況に応じて自ら発電等の自然エネルギー事業に取り組み,あるいは出資することについても積極的に検討すべきである。
⑶ 自然エネルギー利用に関する社会的合意形成に向けた施策を進めるべき
今後,例えば送電網の強化等,多額のコストを要する施策が必要となることから,コストの負担及び得られる便益等に関する社会的議論を進め,持続可能なエネルギー社会を実現するための社会的コンセンサスを高めていく必要がある。
そのためには,地域主体の取組を進めて各地域住民の関心を高めていくことや,自然エネルギー事業に取り組む人材の裾野を社会科学系の専門家などに広げていくこと等が有効であるが,自然エネルギー100%を実現するための取組は長期間に亘ることから,子ども(将来の世代)に対する啓発,教育活動の充実が必要不可欠である。
子ども(将来の世代)に対する教育機関である学校に自然エネルギー利用設備  を設置することは,そのまま将来の世代への啓蒙につながりやすいものであり,また,その設備を利用するなどして体験活動を含むエネルギー教育カリキュラムを設けること等は更に有効であると考えられるから,福島県及び県内各市町村はこのような施策を積極的に推進すべきである。
4 結論
よって,当会は,「自然エネルギー100%」による持続可能なエネルギー社会を実現するため,福島県及び県内各市町村に対し,以下のとおり求める。
⑴ 福島県は,県内各市町村と協議のうえ,今後の県内の自然エネルギーの市町村別・種類別の導入計画を策定し,導入計画の実現のために必要十分な国及び福島県が行うべき施策並びに予算の検討を進め,国が行うべき施策については,国に対して実施を求めること。
⑵ 福島県及び県内各市町村は,地域主体の取組を対象とした独自の助成及び支援制度を充実させること。また,自ら発電等の自然エネルギー事業に取り組み,あるいは出資することについても積極的に検討すること。
⑶ 福島県及び県内各市町村は,持続可能なエネルギー社会を実現するための社会的コンセンサスの形成に向けて,社会的議論の場の設定,学校における自然エネルギー設備の導入や,体験活動を含むエネルギー教育カリキュラムの設定等の取組を推進すること。以上,決議する。

 2015年(平成27年)2月21日
福島県弁護士会

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