早急に勾留・保釈制度の改革を求める決議
保釈について、刑事訴訟法89条には、(裁判所は)同条各号記載の除外事由に該当する場合を除いて、保釈請求があればこれを許さなければならないと規定されている。
しかし、現在の刑事司法において、多くの被告人は、身体拘束を受けたまま判決を受け、否認すれば保釈は認められず、容疑を認めている場合であっても、第1回公判前の保釈は、例外的にしか認められておらず、法令上の原則と実務の運用とが逆転している。そして、この点については、これまでの、個々の弁護人による保釈請求、日本弁護士連合会等による種々の改善要請活動にも関わらず、未だ基本的に改善されていない。
このような状況下、2007(平成19)年中には、刑事司法における無実の人々による虚偽の自白が問題とされた事件が連続して発生した。とりわけ鹿児島地裁平成19年2月23日判決(いわゆる志布志事件判決)は、被告人の身柄拘束が虚偽の自白の原因となり得ることを指摘している。虚偽の自白による冤罪を防止するためには、勾留・保釈制度を改革し、被告人の身柄を早期に釈放できるようにすることが必要である。
また、2009(平成21)年に始まる裁判員裁判においては、公判前整理手続や連日開廷との関係で、弁護人が刑事施設に赴いて被告人と接見をすることでは、到底十分な打ち合わせを行うことができないから、保釈がこれまでよりも広範に認められることが必要となる。しかも、裁判員に分かりやすい公判の実現のためには、取調べの可視化とも関連して、自白の任意性・信用性をめぐる主張・立証が延々と展開される事態は避けなければならない。
更に、2007(平成19)年5月18日、国連拷問禁止委員会は、起訴前の保釈制度が存在しないことについて懸念を表明し、公判前段階における拘禁の代替措置の採用について考慮することを勧告し、1年以内の返答を求めている。
以上の諸事情から、勾留・保釈に関する制度改革については、現在の刑事司法における緊急の課題であり、早急に改革が求められているというべきである。
よって、当会は、国に対し、2009(平成21)年の裁判員制度実施までに、以下の制度改革を実施するよう求める。
(1)起訴前保釈制度の創設
:刑事訴訟法207条1項ただし書きを削除すること
(2)権利保釈の対象外犯罪の限定
:刑事訴訟法89条1号を「被告人が死刑に当たる罪を犯したものであるとき」と改正すること
(3)権利保釈除外事由(刑事訴訟法89条4号)の厳格化
:刑事訴訟法89条4号を「司法権の行使を妨げる客観的な危険が具体的な証拠によって認められるとき」と改正するか、少なくとも「被告人が自らの有罪証拠を隠滅すると推定するに十分な理由があることが具体的な証拠によって認められるとき」と改正すること
(4)権利保釈除外事由(刑事訴訟法89条5号)の厳格化
:刑事訴訟法89条5号を「被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると推定するに十分な理由があることが具体的な証拠によって認められるとき」と改正すること
(5)未決勾留の代替制度の創設
:例えば、一定期間ごとの裁判所や検察庁への出頭を義務づけたり、裁判所書記官や検察事務官などが不定期に自宅に電話をするなどして所在を確認するという方法により公判への出頭を確保するなどの未決勾留の代替制度を創設すること
以上決議する。
2008年(平成20年)2月23日
福島県弁護士会