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充実した裁判員裁判の実施を求める決議

裁判員裁判は、2009年(平成21年)5月21日から、福島県内では福島地方裁判所本庁及び郡山支部で実施される予定である。市民の司法参加は、国民主権を実質化し、司法の国民的基盤を確立するために様々な経験や知識を持った市民が、その良識を刑事裁判の内容に反映させることで、司法に対する理解が深まり、信頼が高まることが期待されている。この裁判員裁判制度については、制度そのものの問題点が少なからず指摘されているところである。しかし、福島県弁護士会(以下、「当会」という)は、裁判員裁判が実施される以上、被告人の憲法上及び法律上の権利・利益を十分に擁護していくために、在野法曹として裁判員裁判に対応するものであり、制度の問題点については、検証をし、すみやかに法律や運用の見直しがされるべきであると考える。

ただ、現行の裁判員裁判にも直ちに解決されるべき問題がある。

まず、福島県内での裁判員裁判は、福島と郡山で実施され、このほかの地裁支部では実施されない点である。これは、地域に根ざした司法の実現に逆行するものであり、被告人にとっても、県内各地に在住する裁判員候補者にとっても、出頭に相当の時間を要するなど過大な負担を強いるものであり、さらには、裁判員裁判が実施されない支部の弁護士が弁護人となった場合にも大きな負担となるものである。

次に、被告人の防御権は、証拠請求の制限を伴う公判前整理手続及び審理時間が短縮された連日的公判手続により、大幅な制限を受けかねない点がある。同時に、裁判員の負担軽減の名の下に審理の迅速性が過度に強調されることになれば、裁判員が質問を遠慮したり、評議において自分の意見を十分に発表できないことにもなりかねず、実体的真実と乖離した拙速な審理・評議がなされ、十分な議論がないまま判決に至る虞もある。

また、起訴から公判前整理手続、さらに連日的開廷が行われる公判手続に至るまでの間、被告人と弁護人間で綿密な打合せが継続的に行われることが必要不可欠であるところ、従来のような拘置所等での接見では時間的にも場所的にも限界がある。被告人が勾留されたままでは、充実した弁護活動が困難となると予想されることから柔軟な保釈の運用が必要である。

さらに、裁判員裁判は、弁護人に対し、公判前整理手続での予定主張及び証拠請求を求めており、公判では短期間での集中的な審理が予定していることから、特に国選弁護人の場合、一人の弁護人では十分な弁護活動をすることが極めて困難な場合が多いと思われる。これに加え、福島、郡山を除く支部の弁護士が弁護人となった場合には、その負担は大幅に増加することになる。

このように裁判員裁判の実施にあたっては、裁判員が過度な負担を伴わずに積極的に裁判員裁判に参加できるようにすることも必要ではあるが、被告人の防御権を些かも後退させることなく、これまでと同様の十分な弁護活動が運用上も認められる必要がある。当会では、現にほとんど全ての弁護士が国選弁護事件を受任してきたところである。当会は、裁判員裁判も特別な裁判として捉えることなく通常の刑事裁判と同様に、被告人の権利擁護を最優先に考え裁判員裁判に取り組むことをここに宣言するとともに、市民の意見が十分に反映された充実した裁判員裁判の実施に向け、以下のとおり求める。

1. 裁判員裁判は、被告人の防御権に十分配慮された充実した審理が主眼とされるべきであって、公判前整理手続においては迅速性が過度に強調されることがないように配慮し、公判手続においても裁判員が十分な判断材料を得られるように配慮して慎重な審理をすること

2. 保釈許可決定が原則とされるような運用がなされること

3. 国選弁護事件については、原則として弁護人の複数選任を認めること

4. 裁判員裁判実施直後から制度の検証を実施し、施行3年の経過を待つことなく順次制度の見直しを検討すること

2009年(平成21年)02月21日
福島県弁護士会

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