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東京電力福島第一原子力発電所事故により避難している福島県民に対する偏見や差別、とりわけ県外に避難している子どもたちに対する偏見や差別をなくすよう十分な施策を求める会長声明

1. 東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「原発事故」という。)により県外に避難した福島県民は、2011年(平成23年)4月28日現在、計3万3912人にも上り、その内、県外の学校に転入した児童生徒数は約4000人に及ぶ。

今なお続く余震の恐怖に怯え、原子力発電所から漏れ出る放射性物質の危険に苦悩し県外へ避難したものの、ホテルで宿泊を拒否される、ガソリンの給油を拒否されるといった、あたかも追い打ちをかけるかのような福島県民への偏見や差別が問題となっている。

さらには、茨城県つくば市が、転入しようとした避難者にスクリーニングを受けることを求めたり、受けたことを証明する書類の提出を要求したりしていたことが明らかになっている。

このような福島県民への偏見や差別の問題は、子どもたちの間にも同様に生じており、同年3月には、他県に避難していた小学生の兄弟が、公園で遊んでいた際、他の子どもたちから、「放射線がうつる。」と言われ、いじめを受けたとの新聞報道等もなされたところである。

子ども社会の問題は、大人社会のそれを反映するものである。大人が過剰に反応すれば、それが子どもにも影響を与える。子どもたちの心ない言動は、その結果である。

上記の小学生の問題で、当該地方自治体の教育委員会は「(放射線への)大人の不安が子どもたちにも影響を与え、冷静な対応がとれなくなることが危惧される」として、管内の小中学校長らに対し、避難児童に「思いやりをもって接し、温かく迎える」「避難者の不安な気持ちを考え言動に注意する」よう通知している。

2. このような放射線に対する過剰な反応は、放射線の影響を心配するあまりのことかもしれないが、根拠のない思い込みや偏見で人を差別することは重大な人権侵害である。特に、公権力である地方公共団体による差別的取扱いは決して許されるものではない。

放射線は病原菌やウイルスではないため、人から人へ感染するなどあり得ないことである。また、放射性物質が付着していた者と接触することによる被ばくに関しても、独立行政法人放射線医学総合研究所の「被ばくに関する基礎知識」にも公表されているとおり、福島県からの避難者において現段階で除染が必要な者はおらず、福島県からの避難者を受け入れても被ばくの点で全く問題がないとされている。

福島県から避難してきたという理由で、避難所での受け入れ、医療機関での受診、アパートなどの入居、就職、学校生活等で差別が行われるとすれば、まさに不合理な差別であり、個人の尊重という憲法の基本原理を否定する重大な人権侵害である。

3. 以上のように、福島県民への差別的取扱いは、誤った認識に基づく、まさに偏見に基づく差別というほかはない極めて深刻な人権侵害である。日本国憲法は個人の尊厳と法の下の平等を保障し、すべての人がいかなる差別もなく人権を享有することを謳っている。

震災、津波、そして原発事故に遭遇して住み慣れた故郷を離れ避難生活を余議なくされ、不安のさなか、その避難先でいわれない差別を受ける者の精神的苦痛がどれほどのものであろうか。とりわけ、子どもの場合、家庭外の生活のほとんどを過ごす学校や地域の子ども社会でいじめを受ければ、正に行き場を失うことになるため、被害はより深刻である。

4. 差別の構造は複雑である。そもそも、日本社会では、均質であることが重視され異質なものを排除する傾向がある。このため、お互いに相手の人格を尊重し、人間として尊重し合うべきだという人権尊重の原理が根づきにくい遠因となっている。転校生へのいじめやいわゆるよそ者への差別は、このような社会構造と無関係ではない。

5. 今回の偏見や差別の問題を考えるにあたっても、改めて、人権問題の重要性について考えてみる必要がある。21世紀は人権の世紀というキャッチフレーズのもと、「人権教育のための国連10年」等の様々な施策が行われ、国、地方自治体及び各種団体において、人権思想の普及に努めてきたが、今回の事件は、それらがいかに表面的なものであったかを実証してしまった。

一人ひとりが、あらゆる機会において実施される人権教育を通じて、人権の大切さを認識し、日常生活のさまざまな場面において実践に結びつけ、人権尊重の意識が着実に根づいた社会を実現する必要がある。

6. 今回の差別の問題は、前述のとおり放射線及び放射性物質についての無知や誤った認識に基づいており、すべての人が、放射線及び放射性物質の危険性についての正しい知識を身につけることが差別解消にとって重要である。

そのために、国及び福島県は、全国民に向けて、科学的根拠に基づいたわかり易いメッセージを発信する必要がある。その際、放射線が感染することはあり得ないこと及び福島県民と接することにより被ばくする危険はないことを明確に国民に伝えることが重要である。メッセージの内容は、子どもを含め誰にでもわかり易く、納得できるものとする必要がある。

そして、メッセージは、全国民にくまなく届けられる必要がある。それには、例えばテレビCM等の国民に広く届き易い手段が活用されるべきである。

さらに、差別により特に子どもに深刻な被害が生じることを防ぐため、国は、報道されるような差別の実態について、十分な調査を進めると共に、教育機関に対し、差別問題の解消に向けて適切な対応をとるよう指導すべきである。

7. 以上を踏まえ、当会は、国、福島県及びその他の地方公共団体等に対し、以下のことを求めるとともに、当会としても、全国の弁護士会とともに、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする立場にある者として、法律相談、人権救済申立手続等により、差別を受けた福島県民の法的支援のため最大限の努力を尽くす決意である。

(1)文部科学省及び法務省は、原子力発電所事故で避難した福島県民とりわけ子どもたちへの差別の問題について、その実態を調査し、教育機関に対し適切な対策を求めること。

(2)法務省は、福島県民への差別的取扱いについて相談及び人権侵犯事件手続等により早急に適切な対応を行うこと。

(3)国及び地方公共団体は、福島県民への差別的取扱いについて旅館法違反等の法令違反がある場合は、早急に行政指導等の適切な対応を行うこと。

(4)国及び地方公共団体は、国民が放射線及び放射性物質等について、正確な知識に基づき適切な行動が取れるよう学習の機会を設けるとともに、理解を深めるような広報活動を充実させること。

(5)国及び地方公共団体は、福島県民への差別を含め不合理な差別が人権問題であることを広く国民に認識してもらうことができるよう、人権教育や人権啓発活動を充実させること。

2011年(平成23年)05月30日
福島県弁護士会
会長 菅野 昭弘

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