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原子力損害賠償にかかる指針類の改訂等を求める会長声明

原子力損害賠償にかかる指針類の改訂等を求める会長声明

近時,原子力損害賠償紛争解決センター(以下,「センター」という。)における原子力損害賠償にかかる和解仲介手続において,東京電力ホールディングス株式会社(以下,「東京電力」という。)がセンターの和解案を拒否する事例が相次いでおり,特に一定の地区の住民らが集団で和解仲介申立をした事例(以下,「集団申立案件」という。)において,東京電力の和解案拒否の姿勢が顕著である。

センターは,原子力損害賠償法に基づき,原子力損害賠償紛争審査会(以下,「審査会」という。)が策定した原子力損害賠償にかかる指針類(以下,「中間指針等」という。)を基に,福島第一原子力発電所事故につき,円滑,迅速,かつ公正な賠償を進めるため,原発事故被害者と東京電力との間の和解仲介を行う機関であり,これまで多くの案件を解決してきた。しかしながら,東京電力は,集団申立案件において,センターが一定の地区の住民らに共通する被害実態を認め,一律の賠償額を認容する和解案を提示した場合,和解案が「中間指針等に乖離するものである」などの理由で,受諾を拒否する傾向が続いている。

この点,2014年(平成26)年8月4日の総括委員会所見においては,「和解仲介手続において仲介委員が提示する和解案に・・・,中間指針等から乖離したもの・・・は存在しない」とされており,一律の賠償を認めた和解案についても,中間指針等に乖離した判断ではないことは,センター内に設置された総括委員会でも確認されている。

にもかかわらず,東京電力は一律の賠償を認容する和解案を拒否する対応を変えておらず,2018年(平成30年)4月以降,浪江町集団申立て,飯舘村蕨平地区集団申立て,飯舘村比曽地区集団申立て,飯舘村前田・八和木地区集団申立て,飯舘村集団申立てという5件の申立て(これらの申立人は合計約2万1000人に及ぶ)が,東京電力の和解案拒否によって,和解仲介手続打ち切りに至っており,円滑かつ迅速な賠償の実現というセンターの機能が著しく損なわれ,多数の被害者らの救済にとって重大な支障が生じている。さらに,その後も,川俣町小綱木地区集団申立て,福島市渡利地区集団申立て,相馬市玉野地区集団申立て,伊達市富成地区集団申立てについても,東京電力はセンターの提示した和解案を拒否し続けており,その姿勢が変わるに至っていない(なお,川俣町小綱木地区集団申立てについては,2018年(平成30年)12月に和解仲介手続が打ち切られている)。

このように,東京電力は,中間指針等についての一方的な解釈をもとに,センターが提示した和解案を拒否し続けている。このような態度が今後も続けられれば,本来中間指針によって円滑に進むはずだった賠償が滞ることとなり,救済されない被害者を多数生み出す結果をもたらすことになる。センターの和解仲介手続により円滑迅速に被害者救済を図るためには,本会が従前より重ねて指摘しているとおり,和解案に東京電力に対する片面的拘束力を認めるという制度改正が必要であるが,それが実現するまでの間の措置として,中間指針等の見直しを検討するほかない事態に至っているといわざるを得ない。そもそも,中間指針(東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針)が定められたのは2011年(平成23年)8月であり,その後第1次から第4次にわたり追補が定められているものの,基本的な見直しにまでは至っていない。しかしその間,たとえば福島地方裁判所2017年(平成29年)10月10日判決など,一定の地域に居住する住民の共通損害を認め一律に中間指針を上回る賠償額を認容する判決も相次いで下されている。これらの司法判断の内容に鑑みても,中間指針等の基本的な見直し,特に被害者らに対する賠償水準の見直しが必要な段階に至っていることは明らかである。

そこで,本会は,

  1. 審査会に対し,少なくとも,センターが提示した集団申立て案件についての和解案の内容が指針上の賠償水準の最低限となるよう早急に中間指針等の見直しを図ること
  2. センターに対し,東京電力がセンターの提示した和解案を正当な理由なく拒否した場合,安易に和解仲介手続を打ち切ることなく,和解案を受諾するよう,東京電力に対して毅然かつ粘り強く対処すること

の2点につき強く求めるものである。

以上

2019年(平成31年)1月8日

福島県弁護士会

会長  澤 井  功

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