福島県弁護士会公式ホームページ

Topics

ホーム > Topics > 会長声明 等 > 福島原発事故避難者訴訟についての山形地裁判決を受けての会長声明

福島原発事故避難者訴訟についての山形地裁判決を受けての会長声明

 2019年(令和元年)12月17日、山形地方裁判所は,東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という。)による避難者の損害賠償請求訴訟(以下「山形訴訟」という。)について,判決(以下「山形地裁判決」という。)を言い渡した。

 山形訴訟は,本件原発事故によって,福島県内から山形県に避難を余儀なくされた201世帯合計730人の原告が,東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)及び国に対して慰謝料等を求めた訴訟である。

 山形訴訟の主要な争点は,①本件原発事故について,国に国家賠償法上の過失責任が認められるか,②原告らの被った精神的苦痛について,既に支払われている賠償額を上回る損害があると認められるかの2点であった。

 まず,上記①の争点について,山形地裁判決は,原発の地震・津波対策について国に規制権限があったこと,また,国は原発敷地高さを超える津波が到来する可能性を予見できたことを認めた。しかし他方で「重大な事故が発生する危険性は…切迫したものではなかった」「長期評価については,確率論的ハザード解析で対応することとしていたのであるからこれに関して何ら対応せずに対策を放置していたことにはなら」ないなどの理由で「規制権限を行使しなかったことが合理性を欠くとはいえない」と判断し,国の責任を否定した。

 しかし,原発における過酷事故は,本件原発事故を見れば明らかなとおり,極めて多数の人の生命や生活基盤を脅かすものであり,過酷事故が発生することが予見できたのであれば,国は規制権限に基づき,何らかの具体的対策を命じるべき義務があるというべきである。また,「確率論的津波ハザード解析」については,本件原発事故当時,その手法等が確立していたものではなく何ら具体的対策につながるものではなかったのであるから,「確率論的ハザード解析で対応することとしていた」というのは,対策の先送り・放置に他ならない。山形地裁判決は,原発事故がもたらす被害を軽視し,安易に国を免責したものといわざるを得ない。

 また,上記②の争点について,山形地裁判決は,原告730名のうちのわずか5名に対して8万8000円,合計44万円の請求を認容するにとどまり,避難指示等対象区域内から避難した原告,「自主的避難対象区域」から避難した原告いずれについても,その慰謝料額は,既に東京電力が支払った額を超えないとして,その余の請求を棄却した。これは,結局のところ,原子力損害賠償紛争審査会の示した指針類で示された賠償基準(賠償額)で十分とするものであり,これまで,原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介手続(原発ADR)において示されてきた避難者についての賠償判断の水準にも遠く及ばないものであり,原発事故により避難を余儀なくされ,過酷な環境の中で避難生活を続けてきた被害者らの被害実態を直視していないものといわざるを得ない。

 山形訴訟の原告らの大部分は,山形地裁判決を不服として控訴しているが,上記のように極めて重大な問題をはらむ山形地裁判決については,控訴審で是正されることを強く期待する。

 本会は,これまで,繰り返し本件原発事故が「人災」であることを表明し,また,これまでの本件原発事故の被害者に対する賠償が被害実態から見て十分でないことについて,繰り返し意見を表明してきたものであるが,今回の山形地裁判決を受け,あらためて,国及び東京電力が事故惹起についての責任を自ら認め,被害者に対して十分な賠償を行うとともに,被害者の生活再建のため,環境回復・健康被害予防・生活支援等の様々な施策を総合的に実施することを強く求めるものである。

 

2020年(令和2年)1月20日

福島県弁護士会

 会長  鈴 木 康 元

カテゴリー

最近の投稿

月別投稿一覧