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現東京高等検察庁検事長の違法な定年延長を行った閣議決定の撤回を求め,国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察役職者の定年等に裁量的例外を設ける部分に反対する会長声明

 内閣は,本年1月31日の閣議において,本年2月に63歳定年により退官者となるべきであった東京高等検察庁検事長の定年を,国家公務員法(以下,「国公法」という)の定年延長規定を適用することによって延長することを決定した(以下,「本件閣議決定」という)。しかし,以下の通り,本件閣議決定は違法である。
国公法は,公務員が,国公法の定年規定に基づいて退職すべき場合について,特定の要件を満たせば,任命権者が定年延長できる旨を定めている。しかし,検察官については,現行検察庁法が63歳(検事総長は65歳)で退官する旨を定めており(検察庁法第22条),これは検察官の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の定年規定の特例として定められたことが明示されている(検察庁法第32条の2)。すると,検察官の定年の場合は専ら検察庁法第22条に基づいて退官するのであり,国公法の定年規定は適用されず,後者に基づく定年の場合を前提とした国公法の定年延長規定は適用し得ない。このことは,1981年(昭和56年)に国家公務員に定年制や定年延長制が導入された際,国会審議において,政府から同様の見解が示され,これに基づいて法改正が行われたという経緯からも明らかである。
 検察庁法がこのように国公法とは異なる人事制度を有する趣旨は,検察の公正性及び中立性の確保のためである。すなわち,検察官は,刑事事件について強大な捜査権を有し,また司法権たる裁判所に対し刑事司法作用の発動を求める公訴提起の権限を独占している。これらの権能から,検察は,行政権の一部に属しながらも「準司法官的性格」を帯びると言われ,一般の公務員よりも高度に,司法権に類似して政治部門から分節・独立し,公正性及び政治的中立性が確保されなければならない。さもなければ,犯罪の疑いがあれば,時には内閣総理大臣を含む政治家をも捜査し公訴提起するという公益的役割を果たす義務を負う検察が,それを躊躇し,追及をなおざりにすることになりかねないからである。検察庁法独自の人事制度は,同法の定める例外を除いては意に反する免官等がされず,それと引き換えに,定年により一律に退官することとし,政治部門に定年を左右する裁量の余地のある国公法の定年関係規定の適用を排除し,検察の政治部門からの独立を人事面から保障するものである。これは憲法の基本原理である権力分立から要請されている。前記国公法の規定の適用を認める解釈変更が許されない実質的な理由は,この趣旨を没却するためである。
 したがって,本件閣議決定は,検察庁法第22条及び同法第32条の2に違反するものである。現にこれまで国公法の規定により検察官の定年が延長された例はなかったが,今回,内閣は,合理的かつ十分な理由の説明もなく国公法に基づく検察官の定年延長が可能であるとの解釈の変更(ただしこれはそもそも前記各条項の文言及び立法者意思に反しており,採用し得ないものである。)を行った上で,上記特定の検察官の定年延長及びこれに基づく東京高等検察庁検事長職へ引き続き在職させることを強行したものである。 
 ところが,内閣は,本件閣議決定を撤回しないばかりか,今通常国会に対し,現行の検察官の定年年齢の段階的引き上げとは別に,前記の任命権者による定年延長と同趣旨の規定を盛り込む検察庁法の一部改正が含まれる「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を提出している。
 これは,すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上で,63歳を超えて検事総長を補佐する最高検次長検事や高検検事長,各地検検事正などの役職に原則として就任できない,いわゆる「役職定年制」が適用される一方,内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは,上記役職定年を超えて,あるいは定年さえも超えて当該官職で勤務させることができるとしている(改正法案による改正後の検察庁法第9条第3項ないし第5項,第10条第2項,第22条第1項,第2項,第4項ないし第7項)。
 しかし,これによれば,公訴提起等につき決裁権を有する検察の役職者等について,内閣または法務大臣の判断に基づいて,一方で政治部門の意に沿う者が本来の上限年齢到達後も引き続きその官職にとどまり,他方そうでない者が延長されずに官職を解かれることになるという,恣意的な人事に途を開くことにもなり,やはり従来の検察独自の人事制度の趣旨を没却することになる。このような危険への対応を検討することなく本改正が行われれば,検察が政治部門に従属し,それゆえに政治部門,とりわけ政府・与党の刑事責任を追及できなくなる懸念があり,もって,検察の公正中立が脅かされ,憲法の基本原理である権力分立に反し,さらにはわが国の刑事司法の公正に対する信頼を著しく損なうおそれが高い。なお,本改正が行われたとしても,さきに既に行われた違法な本件閣議決定が合法となるものでないことは言うまでもない。
 よって,当会は,本件閣議決定を撤回して違法状態を除去することを求め,また国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち,内閣等の裁量によって検察役職者の定年等に例外を設ける「特例措置」にかかる部分に強く反対するものである。

   令和2年5月15日
                  福島県弁護士会
                  会長  槇       裕   康

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