福島県弁護士会公式ホームページ

会長声明 等

ホーム > Topics > 会長声明 等 > 民事法律扶助の利用者負担の見直し、民事法律扶助の審査手続の簡素化、民事法律扶助の対象事件の拡大及び弁護士報酬の増額を求める会長声明

民事法律扶助の利用者負担の見直し、民事法律扶助の審査手続の簡素化、民事法律扶助の対象事件の拡大及び弁護士報酬の増額を求める会長声明

民事法律扶助の利用者負担の見直し、民事法律扶助の審査手続の簡素化、民事法律扶助の対象事件の拡大及び弁護士報酬の増額を求める会長声明

 民事法律扶助は、弁護士を依頼する資力に乏しい者に対し、憲法第32条に定める「裁判を受ける権利」を実質的に保障し、法の支配を行き渡らせようとする制度であり、わが国では1952年に財団法人法律扶助協会(以下「扶助協会」という。)が設立されて、弁護士費用を給付し、勝訴して相手から金員を受領できたときには一部負担を求める制度として発足した。しかし、扶助協会は財政的な困難に直面して国庫補助金を受けるようになり、利用者が財産的利益を得たか否かに関係なく、援助を受けた費用の全額を償還するいわゆる立替・償還制が導入されてしまった。

2000年に民事法律扶助法が制定され、2004年に総合法律支援法が制定され、同法は、民事法律扶助事業の実施それ自体を国の責務とするに至った。
2006年10月、日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)が扶助協会から民事法律扶助事業を引き継いで実施しているが、前記償還制は今日に至るまで維持されている。
この 償還制は、利用者に償還債務を負担させる制度であるから、負担回避のため民事法律扶助の利用を差し控え、法律問題を解決できない事態も発生している。また、婚姻費用や養育費などの扶養料からも毎月償還を求めるため、償還自体が生活を圧迫することになる。自己破産申立をするに当たって、他の事件についても民事法律扶助を申し込んでも、その立替金が免責債権となり償還がされないとの理由から、援助開始決定を受けられないなどの問題も生じている。このように償還制は、民事法律扶助利用の大きなハードルとなっている。今日の社会は規制緩和が推進され、事後救済型社会への転換が進んでいる。このような社会において、民事法律扶助は、経済的に司法アクセスできない者のセーフティネットとしての機能を果たしており、民事法律扶助利用の障害を取り除いてより利用しやすいものとする必要がある。現在、長引くコロナ禍の影響で、職を失ってしまった者やひとり親家庭等のいわゆる社会的弱者がますます困難な状況に追いやられ法的支援の必要性が更に高まっている。まさに今、民事法律扶助の利用者負担の在り方を見直し、償還制ではなく原則給付制とし、資力に応じた負担を求める応能負担制度に転換する必要がある。また、原則給付制が実現されるまでの過渡的な対応として、償還免除の範囲を拡大させることも必要である。
現在、代理援助手続の審査手続には、援助申込書、資力申告書、事件調書及び自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書等の提出が必要であるが、多数の書面提出が利用者及び弁護士の負担となっている。民事法律扶助をより利用しやすいものとするためにも、審査に必要書類の簡素化を図る必要がある。
さらには、社会経済構造の変化の中で、民事紛争案件以外にも専門家による法的支援が必要な事案が増大しており、国民等の正当な権利擁護の観点及び弁護士の早期支援により複合的多重的な困難へ進行することを防止する観点からは、特に高齢者・障がい者、子ども、在留資格を有しない外国人等社会的弱者といわれる者への法的支援は重要である。これらの法的支援は、現在、日本弁護士連合会が費用を負担して法律援助事業として行っているが、その費用負担は本来、国費・公費で賄われるべきであり、これらを含め、法的支援が必要な事案に対する民事法律扶助の範囲の拡大が必要である。
国民が、自らの権利・利益を確保、実現できるように、弁護士は「国民の社会生活上の医師」の役割を果たしてきたと自負しており、弁護士、弁護士会はこれからも民事法律扶助を積極的に支えなければならない。
しかし、民事法律扶助における弁護士の報酬基準(立替基準)は、消費税の導入や税率の変更による改定が行われた以外には、20年以上もの長期に亘って改定がなされていない。そのため、民事法律扶助のニーズが高い離婚、養育費、子の監護を巡る事件等の家事事件や自己破産申立事件においては、民事法律扶助を利用しない場合の一般的な弁護士報酬額より相当程度低廉なものとなっている。そのうえ、養育費請求事件や婚姻費用請求事件等の場合、受任弁護士が法テラスから報酬決定を得たとしても、最長で2年にも亘って受任弁護士が利用者から直接報酬を回収することを求められるなど、業務量や労力に見合わない報酬ですら、弁護士にとってその確保が困難なものとなっている。民事法律扶助制度は、これまで弁護士の献身的な活動によって支えられてきているものの、このままでは、弁護士の民事法律扶助離れを招きかねない。民事法律扶助の担い手を確保し、同制度の運用を持続的に維持発展させるには弁護士報酬を増額する必要がある。
諸外国では、法律扶助の予算規模が我が国のそれよりはるかに大きく、かつ、原則として公的資金の「給付」となっている。我が国において、民事法律扶助制度を更に利用しやすく、また、持続発展させていくために、国は、総合法律支援法の定める基本理念にのっとり、総合法律支援の実施及び体制の整備に関する施策を実施する責務(同法第8条)を果たすべきである。
当会は、司法アクセスを確保するため、引き続き民事法律扶助の担い手の確保に努めるとともに、民事法律扶助制度の抜本的改革に向けて全力を尽くす決意である。そして、民事法律扶助制度を法的セーフティネットとして十分に機能させるため、国及び法テラスに対し、以下のとおり求める。

  1. 弁護士の調停・裁判等の際の費用 (代理援助費用)について、償還制を改めて、原則給付制を採用し、資力が一定程度を超えている利用者のみ負担能力に応じて負担する(応能負担)など、利用者負担の軽減を図るべきこと。
  2. 民事法律扶助の審査手続を簡素化すること。
  3. 現在、日本弁護士連合会が行っている民事法律扶助事業を国費・公費化することを始めとして、法的支援が必要な事案に対して民事法律扶助制度の範囲を拡大すること。
  4. 民事法律扶助制度が権利実現のための持続可能な制度となるよう代理援助における弁護士報酬を増額すること。

2023年 (令和5年)1月11日

福島県弁護士会
会 長 紺 野 明 弘

 

カテゴリー

最近の投稿

月別投稿一覧