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地方分権の理念を後退させる地方自治法改正に反対する会長声明

地方分権の理念を後退させる地方自治法改正に反対する会長声明

 政府は、本年3月1日、地方自治法の一部を改正する法案(以下、「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。今般の改正案は、第14章として「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」を新設し、大規模な災害や感染症のまん延など、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合、個別の法律上の根拠がなくても、閣議決定を経て国が地方自治体に対してその事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し必要な指示を行うことができることなどを定めた(改正案252条の26の3ないし同252条の26の10)。

2000年(平成12年)に施行された、いわゆる地方分権一括法によって、国の地方自治体に対する包括的指揮監督権は廃止され、国と地方自治体との関係は「主従上下」関係から、「対等協力」関係へと大きく変容した。これを実効化するため、国の地方自治体への関与については、①法律による根拠なしにはなしえず(関与法定主義、現行地方自治法245条の2)、②法が定める関与のあり方に従わなければならず(一般法主義、同245条の3)、③必要最小限度にとどめなければならない(必要最小限度の原則、同条)ことなどの一般原則が定められた。そして、国の地方自治体に対する関与は、法定受託事務については一般的な指示権(具体的な措置内容を特定して指示がなされた場合、地方自治体は措置内容についても拘束される)が認められるものの、地方自治体に対して是正の指示を行えるのは法令違反等がある場合に限定された。さらに、自治事務については、地方自治体の自主性尊重の見地から、原則として国の関与は是正の要求(是正のための具体的な措置内容は地方自治体に委ねられる)までとされ、国が指示を行えるのは「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等」という極めて例外的な場合に限定された(同245条の3第6項)。

このように、現行地方自治法は、国の関与を限定することにより、地方自治体の自主的主体的な事務執行、ひいては憲法で保障された地方自治の本旨を担保しようとしているが、改正案においては、個別の法令上の根拠がない場合においても、また地方自治体の事務の執行に法令違反等などがない場合でも、自主性を尊重すべき自治事務について国が指示を行うことができることになりかねず、国と地方自治体の対等な協力関係という地方分権改革の目的や理念そのものを後退・変容させるとともに、地方自治を制度として保障した日本国憲法92条等の趣旨を没却するおそれがある。また、改正案による指示の要件には、現行法245条の3第6項の「緊急に」との文言がなく、恣意的な運用がなされるおそれも否定できない。

政府は、「コロナ禍の下で感染症対策について国と地方自治体との間で調整が難航するなどの課題が表面化した」ことなどを改正案の立法事実としている。しかし、感染症法63条の2に厚生労働大臣が都道府県知事に対し必要な指示を行うことができる旨の規定があるし、コロナ禍に適用された新型インフルエンザ等特別措置法に規定された地方自治体の事務は法定受託事務とされ国に指示権が認められていた。このようなことからすれば、コロナ禍の下で対応の調整が難航したことの原因が指示権のなかったことにあるとは必ずしもいえず、立法事実の存在は疑わしい。そもそも、自然災害や感染症への対応については、刻一刻と変化する現場の状況に応じて対策を迅速に検討実施することが求められるところ、そのような検討に必要な情報を有しているのは、国ではなく、むしろ現場で事態に直面している地方自治体である。これらの事情に鑑みれば、大規模な自然災害や広範囲に及ぶ感染症のまん延の際に、国に求められるのは、地方自治体等から寄せられる多数の現場情報の収集及び整理・共有、対応にあたる地方自治体への後方支援などであって、地方自治体の上に立って指示を行うことではない。国の一般的指示権を認めることは、むしろ災害や感染症等に対する現場対応の混乱を招くおそれがある。

以上の理由から、当会は、改正案に反対するものであり、政府に対し法案の国会提出に抗議するとともに、国会に対し地方自治の理念をふまえた慎重な審議を求める。

2024年(令和6年)3月13日
福島県弁護士会
会長  町 田   敦

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