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女性の被疑者・被告人の人権を擁護するため、留置施設の集約を撤回し、刑事施設(刑務支所・拘置支所)に勾留することを求める会長声明

女性の被疑者・被告人の人権を擁護するため、留置施設の集約を撤回し、刑事施設(刑務支所・拘置支所)に勾留することを求める会長声明

1 令和6年3月28日から福島県内全ての女性の被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)を郡山北警察署の留置施設に集約する運用が始まった(以下「本件措置」という。)。
福島県警察本部は、令和4年5月の段階において、全国において警察署の留置担当官が勾留中の女性の被疑者等に対しわいせつ行為を行ったとして逮捕される事案が連続して発生したことから、適正処遇のために女性用の留置施設を集約し、原則として郡山署、福島署、会津若松署、いわき中央署のいずれかに身体拘束するものとしていたが、本件措置によりさらに集約化を図った。
2 しかし、全国では北海道、岩手県についで3番目の広さを有する福島県に女性用の留置施設を1つしか持たないことの弊害は大きい。
突如として逮捕・勾留され、捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられた市民にとって、弁護人による援助は必要不可欠である。弁護人は、身体拘束された被疑者等との接見を通じ、刑事訴訟法上認められた防御権を説明し、取調べへの対応を協議し、被害者がいれば示談の交渉を行い、被疑者等が希望する家族や支援者との連絡をとる等の弁護活動を行っている。
本件措置により、弁護人が女性の被疑者等と接見するための移動距離は、郡山支部に所属する弁護士を除くと片道約50~100kmにまで増大した。その結果、弁護人の接見に要する時間は、移動時間も含めて1回あたり3時間~5時間程度見込まれることとなった。また、郡山北警察署の面会室は1室しかなく、他の弁護人が接見中であることを理由に弁護人が待たされるという事態が現に発生している。こうした事情は、弁護人が接見の時間・回数を確保することを難しくさせるものであり、女性の被疑者等の不利益となるものである。
そして、遠隔地への移動に伴う時間的・経済的な負担の増加により、家族や支援者が女性の被疑者等との面会ができないといった事態が増えることが想定される。身体拘束をされた被疑者等にとって、家族や支援者との面会は身体拘束による苦痛を和らげるものであり、無罪推定の原則からすれば、法律で認められた場合を除き面会を制限されるいわれはない。とりわけ貧困により旅費が捻出できないことを理由として身体拘束された家族と面会ができないという事態は避けられるべきであるが、集約化以後、実際に貧困により身体拘束された家族と面会ができない事態が発生している。
以上より、本件措置は、女性の被疑者等に対して、性別を理由にして遠隔地の留置施設に身体拘束をすることにより弁護人からの援助を受ける機会を減少させ、家族や支援者との面会を困難にするという大きな不利益を課すものであり、女性の被疑者等の接見交通権(憲法34条、刑事訴訟法39条1項等)を侵害するものといえる。
3 被疑者等のうち女性のみが、その性別を理由として本件措置を取られるようになったが、その区別取扱いについて合理的根拠が認められない場合には憲法14条1項で定められた平等原則に反することとなる。
福島県警察本部は、本件措置を実施する理由として、警察署の留置担当官による女性の被疑者等に対する性犯罪を防ぎ処遇改善を図ること、身体拘束を要する女性の被疑者等が減少していることが理由であると当会に説明をした。
警察職員による性犯罪を防ぐという観点から言えば、警察職員に対する指導教育体制の確立強化、適切な予算と人員確保と配置、職員に対する監視体制の強化等といった女性の被疑者等に不利益を課さない手段を取ることにより対応すべきである。女性の被疑者等の性被害を防止するために、女性の被疑者等に対して不利益を課すことは本末転倒である。
さらに、身体拘束を要する女性の被疑者等が減少しているから郡山北警察署内の留置施設に集約するとの説明は、女性の被疑者等の人権への配慮がいささかも感じられない。
福島県警察本部の説明は、もっぱら警察の内部事情によって本件措置が導入されたことを明らかにするものであり、性別を理由とする区別取扱いの合理的根拠を認めることは困難である。
そのため、本件措置は、平等原則に反するものと言える。
4 そもそも、刑事訴訟法上、被疑者等を勾留すべき場所は刑事施設(法務省の管轄する拘置所・拘置支所)である。警察の留置施設は、本来の勾留場所ではなく、あくまでも代用として認められている代用刑事施設でありいわゆる代用監獄(以下「代用監獄」という。)にすぎない。
代用監獄は、捜査と留置の分離が一応なされているとはいえ、捜査当局自身が被疑者等の身体を拘束し、管理し、全生活を支配するという危険性が必然的につきまとう。そのため、被疑者等の勾留すべき場所は捜査当局と分離された刑事施設とされている。代用監獄への勾留を圧力として利用した取調べは、例えば大川原化工機事件(東京地裁令和3年8月2日公訴棄却決定)にみられるとおり、えん罪を生んだにもかかわらず今も行われ続けている。
本件措置は、先に述べた女性の被疑者等の人権を侵害することに加え、こうした危険性のある代用監獄を原則として用いるものであるから、当会として看過することはできない。
従前、押送(護送)の負担から留置施設への身体拘束が進められてきたが、その根拠が本件措置で無くなったということもできる。
被疑者等の勾留は代用監獄ではなく、福島県内に5か所(福島、会津若松、郡山、いわき、白河)存在する刑事施設(刑務支所・拘置支所)にて行うべきである。
5 当会は、福島県警察本部に対し、本件措置が女性の被疑者等の人権を侵害するものであること及び平等原則に反するものであることを踏まえ、本件措置の撤回を求める。
以 上

2024年(令和6年)5月17日
福島県弁護士会
会長 鈴木 靖裕

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