浪江町集団ADRの打ち切りを受けての会長声明
報道によると、浪江町民ら約1万5000人が原子力損害賠償紛争解決センター(以下、「センター」という。)に和解仲介手続(以下、「ADR」という。)を申し立てていた案件(以下、「浪江町集団ADR」という。)について、センターは、浪江町に対して、ADRを打ち切るとの本年4月5日付の文書を送付したとのことである。
浪江町集団ADRは、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「本件原発事故」という。)による避難慰謝料の増額等を求めて、本件原発事故当時の浪江町民の約7割が、浪江町を代理人として2013年(平成25年)5月以降申し立てたものであり、センターにおける集団ADRの中でも、最も大規模なものである。浪江町集団ADRでは、2014年(平成26年)3月に、申立人らについて避難慰謝料月額5万円を一律に加算し、さらに、申立人らのうち75歳以上の高齢者について避難慰謝料月額3万円を加算する旨の和解案の提示がセンターよりなされたが、東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」という。)は、再三にわたるセンターからの説得や勧告にもかかわらず、一貫して和解案の受諾を拒否し続けた。その結果、今回のADR打ち切りとなったものと考えられる。
センターによるADRは、本件原発事故により大量の放射性物質が広範囲の地域に放出され、多数の被害者が発生している中、原子力損害の賠償に関する紛争の迅速かつ適正な解決を図るために創設されたものであるが、東京電力は、センターの提示した和解案について4年もの長期間にわたって受諾拒否を続け、結果としてADRの打ち切りという結果を招いたものであり、かかる東京電力の対応は、ADRの制度趣旨をはきちがえ、その機能を事実上喪失させるに等しいのであって、極めて遺憾と言わざるを得ない。また、東京電力のかかる対応は、原子力損害賠償支援機構の指導の下に自ら策定公表した「新・総合特別事業計画」(2014年(平成26年)1月)に記載した「3つの誓い」(①最後の一人まで賠償貫徹②迅速かつきめ細やかな賠償の徹底③和解仲介案の尊重)を反故にするものであり、極めて不当である。
したがって、当会は、東京電力のかかる対応について強く抗議し、東京電力が上記「3つの誓い」に立ち戻り、これに忠実な対応をとることを強く求める。
浪江町集団ADRの打ち切りは、上記のように東京電力が不当な和解案拒否を続けたことによるものではあるが、同時に、センターによるADRが被害者の迅速かつ実効的な救済という本来の目的を十分に果たすためには、制度的な改善が必要であることをも示している。当会は、2012年(平成24年)2月3日付「原子力損害賠償紛争解決センターの和解案に対する東京電力株式会社の回答に関する会長声明」において「仲介委員の和解案に片面的拘束力を付与すること」の検討を求め、さらに、2014年(平成26年)1月31日付「原子力損害賠償紛争解決センターに対し片面的裁定機能を付与する立法措置を求める会長声明」等において、センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能(片面的裁定機能)を法定し、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものとみなすとの立法による手当を行うべきであるとの政策提言を繰り返し行っているが、浪江町集団ADRの打ち切りという事態は、こうした立法措置を講じる必要性を、改めて強く浮き彫りにしている。
したがって、当会は、国に対し、かかる内容を含む立法措置を行うことを、重ねて求めるものである。
2018年(平成30年)5月10日
福島県弁護士会
会長 澤 井 功