福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明
福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明
1 最低賃金については,中央最低賃金審議会が厚生労働大臣に答申する目安を参考として,各地方最低賃金審議会が地域別最低賃金を審議し,この答申に基づき,各地方労働局長が地域別最低賃金額を決定している。福島県においても,昨年,地域別最低賃金が1時間あたり726円から748円に改訂され,22円の引上げがなされた。本年も,中央最低賃金審議会における最低賃金改定の目安についての答申が7月末に公表され,これを受けて,福島地方最低賃金審議会において答申がなされる見込みである。
2 わが国の最低賃金制度は,賃金の最低額を保障して労働条件の改善を図り,もって,労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法第1条)。
ここで,1か月あたりの労働時間として,厚生労働省の毎月勤労統計調査の結果(平成29年2月分速報値)である164.0時間(産業計一般労働者の総実労働時間の平均)を用い,福島県の現時点での地域別最低賃金額である1時間あたり748円をもとに試算すると,地域別最低賃金のもとに1か月稼働したとすると,月賃金額は12万2672円となる。
しかし,この賃金額では,労働者及びその家族が十分に生活できるだけの収入水準が確保されているとは言い難い。生活保護受給者の場合を考えると,41歳~59歳の一人暮らしで住宅扶助基準上限(3万1000円)の住宅扶助を受け,その他の加算がなく,また認定される収入もないとした場合の最低生活費を試算すると,約10万3000円程度である(福島市・2級地-1の場合)。世帯に稼働収入のない世帯員がいる場合には,当然ながら,その世帯員の生活費も含まれることになるため,軒並み最低賃金の月賃金額を上回ることとなるし,最低賃金で稼働する労働者の場合,住民税や健康保険税などの公租公課の負担も存在する。こうしてみれば,福島県地域別最低賃金は,一人暮らしの労働者や夫婦共働きの労働者世帯の最低生活をぎりぎり支えることができても,収入のない世帯員(特に子ども)を含めた世帯全体の最低生活を支えるには十分でない(労働力の再生産が困難となる)ことが明らかである。
したがって,福島県における地域別最低賃金の具体的な金額を設定するにあたっても,最低賃金でフルタイムを働いた場合に,最低2名程度の世帯員の最低生活が十分に成り立つ程度の水準が少なくとも確保されるよう検討されるべきである。
3 政府は,2016年(平成28年)6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」の工程表において,最低賃金の全国加重平均が1,000円となることをめざすとし,同月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては,2020年(平成32年)までに「全国最低800円,全国平均1,000円」まで最低賃金を引き上げることを目標として明記している。
ところが,2017年(平成29年)の福島県地域別最低賃金は748円であるから,2020年(平成32年)までの3年間で全国平均の目標値(1,000円)に達するためには,平均で年間84円の引上げが必要である。
また,全国加重平均でみても,2017年(平成29年)現在の最低賃金額は,848円であり,2020年(平成32年)までに全国加重平均1000円にするという政府目標を達成するためには1年当たり50円以上の引き上げが必要である。
4 最低賃金の引上げは,単に,労働者の生活水準の向上をもたらすだけでなく,労働者の離職率を下げ,企業の新規採用・訓練のコストを下げることにもつながり,企業の生産性向上にも資する。さらに,賃金が生活等に消費されることにより,地域での消費を押し上げ,経済成長の刺激となるという経済的効果も指摘されるところであって,企業や地域経済にとってもメリットが存在する。
その反面で,最低賃金の引上げは,経営資源に乏しい中小企業の経営に影響を与えることが予想されるため,政府は,賃金引上げに困難を伴う中小企業に対する補助金制度や公租公課の減免措置,中小企業とその取引先企業との公正な取引の確保措置などを適切に組み合わせ,最低賃金の引上げを円滑に進めるための施策を講じていくことが求められる。
5 本会は,2017年(平成29年)8月1日付け「福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求める会長声明」,2016年(平成28年)9月13日付け同会長声明等を公表し,これまでも最低賃金の大幅引上げを求めてきたところであるが,上記のような状況を踏まえ,中央最低賃金審議会はもとより,福島県地方最低賃金審議会においても,福島県地域別最低賃金の大幅な引上げ(少なくとも50円以上)を早急に図り,労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに,地域経済の健全な発展を促すべきである。
2018年(平成30年)6月13日
福島県弁護士会
会 長 澤 井 功