災害被災者の権利と生活再建のため災害関連法の改正と運用の改善等を求める決議
災害被災者の権利と生活再建のため災害関連法の改正と運用の改善等を求める決議
福島県は、今から10年前、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)という未曾有の大規模災害に見舞われた。東日本大震災と原発事故は、激烈な地震と大津波による甚大な被害をもたらしただけでなく、これに加えて、大量の放射性物質による広範な環境汚染が生じるという「複合災害」であった。こうした深刻な複合災害の経験は、わが国の歴史上も類がなく、福島県は、多数の住民の長期間にわたる広域避難、地域の環境やインフラの毀損、長期化する「風評被害」など、未曾有の被害を蒙り、発災から10年を経過した現在でも、いまだ復興の途上にある。加えて、2019年(令和元年)10月の令和元年台風第19号及びその後の豪雨災害(以下「令和元年台風第19号等災害」という。)によって福島県内の広範な地域において住家の浸水等の甚大な被害が発生した。
当会は、東日本大震災と原発事故に際し、また、令和元年台風第19号等災害に際して、会内にそれぞれ災害対策本部を設置し、被災者からの無料電話相談・被災地における無料面談相談、原発事故被害者の法的支援を目的とする救済支援センターの設置、被災者の生活再建と原発事故被害者の救済のための各種政策提言(決議や会長声明等の発出)など、様々な形で災害被災者等の支援に取り組んできた。その一方、こうした支援活動に取り組む中で、わが国の現行の災害法制やその下での被災者支援策については、被災者の人権確保や生活再建の支援という見地から見て、いまだ不十分な点が数々あることを痛感してきた。
当会は、こうした被災体験や被災者支援活動の経験を踏まえ、現行の災害法制やこれに基づく被災者支援策のさらなる改善により、被災者の人権確保と生活再建へのよりよい支援を実現すべく、下記のとおり、国に対し、災害関連法制の改正と運用の改善等を求める。
記
1 災害救助法関係
災害救助法に基づく支援の実施主体として、市町村・都道府県だけでなく、国を適切に位置づけ、例えば広域避難を想定した自治体の連係についての調整を国が行うべきこと、広域避難等により被災地以外の自治体が行った救助の費用を国に直接求償できるようにすること、自治体が十分に被災者支援を行うことができない場合の国の直接の被災者支援、大規模災害に関する被災者支援活動の費用に関する国庫負担の大幅な増額と使途制限の撤廃・緩和、現金給付、住宅応急修理と仮設住宅の併給可能化などを盛り込んだ災害救助法改正を行うこと。
2 被災者生活再建支援法関係
国の責任において給付額の大幅な増額を行うこと、住宅の再建復旧にとど まらず、被災した個人事業者や災害に起因する失業者など、住宅以外の生活基盤にダメージを受けた被災者に対しても、生活再建支援金を給付することができるよう法改正を行うこと。
3 特定非常災害特別措置法関係
国が適用基準を明確にすることや広報の充実等を盛り込んだ制度運用の改善を行うこと
4 義援金の差押禁止債権化等
公的義援金について差押禁止債権であることを明確にし、かつ全ての災害について一律に適用される恒久法を制定すること、生活保護受給世帯が受領した公的義援金はその性質上包括的に収入認定除外するとの生活保護実施要領改正を行うこと
5 災害弔慰金等支給法
災害弔慰金等支給法に基づく災害関連死についての合理的な判断基準を国が定めること、災害弔慰金の支給にかかる費用についての国の負担を増加すること
6 二重ローン問題(自然災害債務整理ガイドライン)関係
二重ローン解決のための法制化、特に銀行や貸金業者などの金融債権者に対する法的拘束力の付与や法律によるADR創設を行うこと
以上
あわせて、当会は、今後発生することが予想される大規模自然災害等の社会的危機に際して、一人一人の人権が守られ、社会的危機からの「人間の復興」が実現されるよう、今後も災害被災者支援活動等に全力を挙げる決意を表明するものである。
以上のとおり決議する。
2021年(令和3年)2月26日
福島県弁護士会