震災・原発事故から10年を迎えるにあたっての会長談話
東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から10年を迎えるに
あたっての会長談話
本日、2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という)から、10年を迎えた。10年という節目を迎えるにあたり、東日本大震災及び本件原発事故にともなう犠牲者及びそのご遺族にあらためて追悼の意を表するとともに、今なお続く被災者の苦しみに心よりお見舞いを申し上げる。
東日本大震災及び本件原発事故は、世界的に見ても未曾有の大規模災害であり、特に県内においては本件原発事故という人為的な事故により大量の放射性物質が放出されるという大規模災害が伴い、東日本大震災の地震・津波被害との複合災害という性質から、これまでの10年間の復興の歩みは、多くの混乱と困難を伴い、いまだ全面的復興にはほど遠いと言わざるを得ない。かかる状況に鑑みると、これまでの10年間の復興の歩みを総括するには時期尚早であるとの感を禁じ得ないところであり、ここでは、いくつかの課題について触れるにとどめる。
本件原発事故は、県内の広範な地域に放射性物質汚染をもたらし、政府等の避難指示によって避難を余儀なくされた人のみでも10万人を超える住民らが生活基盤を失った。この10年間に、多くの地域で避難指示が解除され、避難住民の帰還に向けた取り組みが続いている。しかしながら、避難が長期化し居住環境が荒廃していること、生活インフラや就労環境等の回復が十分ではないこと、なお放射線量の高い箇所が残存していることなどの複合的な理由から、以前と同様の生活がすぐに成り立つ状況にはなく、避難者が帰還を決断するのは容易なことではない。本会は、これまで、本件原発事故により、避難を余儀なくされた被害者が、帰還、移住、避難継続などいかなる選択をしたとしても、その選択を最大限尊重し、一日も早く生活基盤の再建ができるよう、被害者の選択や意向に応じた最大限の賠償や支援を行うことを、加害者である国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という)に対して求めてきたが、これらはまだ不十分と言わざるを得ない。また、東京電力は、原子力損害賠償紛争解決センターの和解案を合理的な理由なく拒絶し続けるばかりか、裁判所の和解案すら拒絶するに至るなど和解案尊重の約束も反故にし、賠償に対する誠実な態度は見られない状況である。本会は、このような状況に鑑み、改めて、国及び東京電力に対し、被害者の自己決定を尊重した賠償や生活再建支援を十分に行うことを求める。
本件原発事故による賠償請求権の時効期間は、2013年(平成25年)12月に成立した「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」(以下「特例法」という)により、被害者が損害及び加害者を知った時から10年、損害が生じたときから20年とされている。しかし、本件原発事故による損害賠償は、極めて多数の被害者が存在すること、個々の被害者に性質や程度の異なる損害が同時に、かつ日々継続的に発生していること、長期の避難生活等の事情により、損害額の把握やその算定の基礎となる資料収集に支障をきたす被害者が存在すること、ことに不動産等の賠償については、数次にわたる相続関係の処理等に長期間を要する事例があることなどの特殊性があり、特例法にもかかわらず、このままでは賠償請求権の時効が完成してしまう事態が強く懸念されるところである。本会は、2019年(令和元年)10月16日付「原発事故損害賠償請求権の時効消滅に対応するための立法措置を求める会長声明」において、時効再延長のための再度の立法措置を求めたが、残念ながら、今日に至るまでかかる立法措置は実現していない。一方、東京電力としては、昨年9月24日の原子力損害賠償紛争審査会において、補償室長が、「(仮に時効が完成したとしても)実質的に(時効を)援用しないと…説明させていただいている」と述べ、同年12月1日には、代表執行役社長も、福島県副知事に対し「実質的には時効を援用し御請求をお断りすることはない」と回答するなど、一応の態度表明はみられるものの、今後の対応が注目されるところである。本会は、被害者の不安や懸念を全面的に払拭するために、なお時効再延長のための立法措置を求めていくが、同時に、東京電力に対して、時効援用をしないとの方針を貫くことを求め、このような態度が現実に貫徹されているかどうかを引き続き監視していくことを表明する。
本会は、東日本大震災及び本件原発事故から10年を迎える本日、被災者・被害者一人ひとりの「人間の復興」を目指し、支援を継続していく決意を改めて表明するとともに、国及び東京電力に対し、本件原発事故被害者の自己決定を尊重した賠償や生活再建支援を十分に行うこと、国に対し、原子力損害賠償請求権の消滅時効期間の延長等に関する立法措置の検討を早期に開始することを、改めて求める。さらに、国に対し、災害被災者一人一人の生活再建のための公的支援施策の充実を求めるものである。
2021年(令和3年)3月11日
福島県弁護士会
会長 槇 裕 康