自民党内での法案審理における性的少数者への差別発言に対し抗議する会長声明
1 自民党の山谷えり子参議院議員(以下「山谷参院議員」という)が、2021年(令和3年)5月19日、党内の会合の際に、性自認をめぐり「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている」と発言したとの報道がなされた。
山谷参院議員は、翌20日にも、記者団に対し、「理解が進んで多様性を認める、より寛容な社会になるのはとても素晴らしいことだ」と発言する一方で「アメリカなんかでは、学校のトイレでいろんなPTA問題になったり、女子の競技に男性の体で心は女性だからと競技参加して、いろいろメダル取ったり、そういう不条理なこともあるので少し慎重に」「社会運動化・政治運動化されると、いろんな副作用もあるんじゃないでしょうか」などと発言している。
2 トランスジェンダー(性自認と生物学的な性別が一致しない人々)の人々が、性自認と一致する性別のトイレを使用したい、スポーツ競技に参加したいというごく当然の感情を「ばかげたこと」、「不条理」と断じる山谷参院議員の上記発言は、社会で現に生活するトランスジェンダーの人々の抱える悩みや実態を全く理解せず、個人を侮辱し尊厳を貶めるものであるばかりか、トランスジェンダーの人々に対する差別や偏見を助長するものであり、決して許されるものではない。
3 また、同年5月20日に行われた自民党内での「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律(LGBT理解増進法案)」についての法案審理の際、当該法案の目的に「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」と記されていることに関連して、出席者の自民党議員が「法を盾に裁判が乱発する」「道徳的にLGBTは認められない」「人間は生物学上、種の保存をしなければならず、LGBTはそれに背くもの」などと発言したと報道されているが、性自認や性的指向により人間に優劣をつけるこのような差別発言もまた許容することはできない。
4 個人の性自認や性的指向は、人の生き方そのものであり、個人の尊厳の根幹をなすものである。日本国憲法は、13条において個人の尊厳及び幸福追求権を保障しており、たとえ少数者であってもその人らしく幸せに生きる権利を尊重すべきことは当然のことである。さらに、日本国憲法14条は法の下の平等を保障しており、性別、性自認、性的指向にかかわらず、これらを理由とする差別は許されるものではない。
上記の山谷参院議員やその他自民党議員による発言は、性的少数者が当然に有する基本的人権を真っ向から否定するものである。しかも、公権力を持つ公職にある者の発言は、社会に与える影響が大きく、上記のような差別発言によって対象者が受ける屈辱感も著しいものがある。しかも今般の発言は、政府最大与党である自民党に所属する議員からなされたものであり、社会や性的少数者に与える影響は極めて大きい。
当会は、今般の山谷参院議員や自民党議員による、性的少数者を侮辱し、性的少数者に対する差別や偏見を助長する発言に対し抗議するとともに、全ての国会議員に対して、性別、性自認、性的指向にかかわらず、誰もがいわれのない差別や偏見にさらされることなく、自分らしく生きることができる社会の実現を求めるものである。
併せて、当会は、性的少数者に対する差別や偏見は決して許されないことを確認するととともに、性別、性自認、性的指向にかかわらず全ての個人の人権が等しく保障される社会の実現を目指していく所存である。
2021年(令和3年)6月25日
福島県弁護士会
会長 吉 津 健 三