福島地方検察庁郡山支部が公判請求した事件について、改正少年法に基づく特定少年の実名等の公表及び推知報道に対し抗議し、改めて推知報道を一律禁ずる法改正を求める会長声明
1.2021年(令和3年)5月21日に成立した「少年法等の一部を改正する法律」(以下、「改正少年法」という。)により、少年の氏名、年齢、容ぼう等により当該事件の本人と推測できるような記事又は写真の出版物へ掲載(以下、「推知報道」という。)の禁止が一部解除された。
当会は、本年4月1日から同法が施行されたことを踏まえ、本年5月13日付「2022年(令和4年)5月9日、福島家庭裁判所郡山支部において検察官送致決定がなされた事件について、改正少年法に基づく特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えるよう求める会長声明」において、福島家庭裁判所郡山支部が検察官送致決定をした、特定少年が起こしたとされる事件(以下、「本件事件」という。)につき、検察庁に対して実名の公表を控えるよう、また、報道機関に対して推知報道を控えるよう求めていた。
2.しかしながら、本年5月18日、本件事件につき、福島地方検察庁郡山支部は、特定少年の公判請求に合わせて当該少年の実名を公表し、多くの報道機関は推知報道を行った。
推知報道禁止の解除に反対の立場を表明し、改正少年法の下でも、その理念から、なお実名の公表及び推知報道を控えるよう求めてきた当会としては、今回の対応に、強い遺憾の意を表せざるをえない。
3.とりわけ、当会は本年5月13日付会長声明において、それ自体が推知報道であり、遺憾であると指摘したが、本件推知報道前から、本件事件の少年は被害者の孫であると報道されていたため、地元地域社会で更生していくことが困難となる可能性が生じていた。その上、今回さらに踏み込んで、実名が公表されたことにより、当該少年は、およそ地域社会の中で更生することが極めて困難となったというほかない。
4.実名公表について、最高検察庁は、裁判員裁判の対象事件など「犯罪が重大で地域社会に与える影響も深刻な事案」を検討対象にするという基本的な考え方を明らかにしているが、そもそも当該基準自体が曖昧であり、本件事件のように実名公表されるべきでない事案について実名公表がなされる事案が生じうる。また、報道機関による実名報道の判断の可否に関する基準も統一的ではない。
これまで当会としては、特定少年にかかる実名の公表及び推知報道を控えるよう繰り返し求めてきたところではある。
しかるに、現に特定少年の健全育成及び更生の妨げとなりうる、検察庁による実名公表及び報道機関による推知報道がなされた以上、少年の健全育成の趣旨に鑑み、当会としては、もはや特定少年の実名公表及び推知報道に関し、一律の禁止を求めざるを得ない。
そこで当会としては、本件事件にかかる特定少年の実名公表及び推知報道に関し、検察庁及び実名報道をした報道機関に対し、強く抗議する一方、国に対しては、少年法に規定された少年の健全育成の趣旨に鑑み、特定少年の実名公表及び推知報道を一律禁止するよう少年法68条を速やかに改正することを強く求める。
以 上
2022年(令和4年)5月26日
福島県弁護士会
会 長 紺 野 明 弘