東京電力福島第一原子力発電所事故被害者の損害賠償請求集団訴訟に対する最高裁第二小法廷判決を受け、国に対し規制機関としての責務を果たすことを求める会長声明
最高裁判所第二小法廷は、本年6月17日、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)で避難した住民等が損害賠償を求めた集団訴訟に関し、千葉、前橋、福島、松山の各地方裁判所に提訴された4件についての判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
まずは、ここまで長期にわたって全国に多数存する被害者の権利擁護のために闘い続けてきた原告団、弁護団の皆様に敬意を表する。
しかし、本判決のくだした結論は国の責任を否定するものであった(なお、2名の補足意見、1名の反対意見がある)。
本判決は、これまでの各下級審での審理において重大な争点として論じられてきた原子力事業の安全規制のありかた、とりわけ、平成14年7月に公表された「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「長期評価」という。)を受けて、国は技術基準適合命令を発するべき立場におかれたかという点について正面から検討することなく、国が適切な措置を講ずることを東京電力株式会社(現:東京電力ホールディングス株式会社)に義務付けていた場合には、長期評価を前提とする試算にもとづき設計された防潮堤等の設置による対策が講じられた可能性が高いが、当該対策では本件事故時の津波被害を防ぎ得なかったとする因果関係論のみに留まるものであり、訴訟当事者の思いに応える判決とは言い難い。
また、防潮堤等の設置に加え、他の対策が講じられた蓋然性があるとか、そのような対策が講じられなければならなかったということはできないとする本判決の結論は、千葉・松山の各訴訟の原審が、保安院その他の規制機関において防潮堤等の設置によっては防ぎきれない浸水への対策を検討した蓋然性があり、その対策として主要建屋等の水密化という措置を想定することができると認定したことから大きく後退するものである。
本判決は4人の裁判官によりくだされた小法廷判決であり、後続している多くの集団訴訟において他の争点も議論されていることから、今後、国策として進められてきた原子力事業の安全規制のありかたと国の責務について、最高裁判所においてさらに踏み込んだ司法判断がなされるべきである。
もとより、本判決で国家賠償法上の国の責任が認められなかったことにより、原子力事業における規制機関としての国の責務の重さがいささかも減じられるものではない。
そこで当会は国に対し、本件事故の甚大な被害を教訓として、三浦守裁判官の反対意見で指摘されているような本来の規制機関としてのありかた、すなわち、自ら主体的に、最新の知見を把握し、これに基づいて、できる限り迅速かつ積極的に法律上の権限行使に関する自らの責務を果たす姿勢をとっていくことを強く求める。
以 上
2022年(令和4年)7月19日
福島県弁護士会
会 長 紺 野 明 弘