「秘密保全法」制定に反対する会長声明
1. 政府は,平成23年8月に「秘密保全のための法制に関する有識者会議」がとりまとめた報告書「秘密保全のための法制の在り方について」(以下「報告書」という)の提出を受け,同年10月に政府における情報保全に関する検討委員会において秘密保全に関する法制の整備のための法案化作業を進めることを決定し,秘密保全法案を国会に提出する準備を進めている。
しかし,この報告書で想定されている秘密保全法制は,以下のとおり,国民主権,民主主義及び知る権利をはじめとする憲法で保障された国民の諸権利に重大かつ深刻な影響を与えるなど多くの問題点を含んでいる。
2. まず,行政機関が①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持の分野で「特別秘密」に指定した情報を保護し,これの取得,漏えいなどの行為が処罰の対象とされている。
このように「特別秘密」の範囲は曖昧かつ極めて広範であり,特に「公共の安全及び秩序の維持」が含まれているため,行政機関にとって都合の悪い情報を「特別秘密」に指定するという恣意的な運用がなされるおそれがある。
また、「過失の漏えい行為」についても処罰対象とし,加えて「漏えい行為の共謀行為」や「漏えいの独立教唆及び扇動」をも「正犯者の実行行為を待つことなく」独立して処罰対象としており、この処罰の対象には大学等の研究機関や民間事業者が行政機関等から委託を受け作成・取得した情報までも含まれているため,表現の自由に重大な萎縮効果を及ぼすとともに知る権利を侵害するおそれも高い。
さらに,「特別秘密」について,犯罪に至らない「社会通念上是認できない行為」を手段とする探知行為をも処罰対象とし,その処罰対象には共謀や独立教唆及び扇動まで含むとされているが,このような曖昧・不明確な文言による罰則の制定は罪刑法定主義に反するばかりか,報道機関等の取材活動に対する萎縮効果は計り知れず,取材の自由や国民の知る権利の侵害につながるといわざるを得ない。
3. そして,「秘密情報を取り扱わせる者」(対象者)については,「日ごろの行いや取り巻く環境を調査し,対象者自身が秘密を漏えいするリスクや,対象者が外部からの漏えいの働きかけに応ずるリスクの程度を評価することにより秘密情報を取り扱う 適性を有するかを判断する制度」(適性評価制度)を設けて,対象者だけでなくその配偶者・家族等までをもこの評価を実施するための事前調査の対象とする制度導入も求めている。
しかし,このような制度は,その運用次第では対象者はもとより,その配偶者・家族等のプライバシー情報を広く収集することを認めることにつながり,国民のプライバシー権,思想・信条の自由が侵されることにつながりかねない。
4. 現在の情報公開制度が十分に機能しているとは言い難い我が国の状況からすると,むしろ国民の知る権利を十分に保障し,情報公開制度の運用の改善・情報公開法の早期改正の実現こそ目指すべき方向性である。
5 . よって,当会は,行政機関が保有する情報が国民のものであって原則として公開されるべきであることを確認するとともに,報告書の提言に基づく秘密保全法制の制定に強く反対する。
2012年(平成24年)10月05日
福島県弁護士会
会長 本田 哲夫