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東京電力福島第一原発事故による営業損害の賠償打ち切り案の撤回を求める会長声明

東京電力福島第一原発事故による営業損害の賠償打ち切り案の撤回を求める会長声明

  2014(平成26)12月22日、資源エネルギー庁の要請により開催された非公式の「説明会」において,資源エネルギー庁と東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は,福島県内の商工会に対し,避難指示区域内の事業者に対する営業損害の賠償について,原則として2016(平成28)年2月分で打ち切るとした「今後の福島県内の商工業等に係る損害賠償等について(案)」(以下「素案」という。)を示した。この「素案」は公表されていないが,農林を除く事業者の2015(平成27)年3月分以降の営業損害について,避難指示区域内の事業者に対しては,従前の商圏の縮小・喪失に対する損害として減収率100%の逸失利益の1年分とみなして定型的に賠償するとしている。避難指示区域外の事業者に対しては,2015(平成27)年3月分以降について,事故と減収との相当因果関係が認められない場合には賠償を行わないことを前提とし,相当因果関係が認められた場合でも,損害額を直近逸失利益の1年分とみなして定型的に賠償するとしている。また,避難指示区域外の農林水産品を取り扱う商工業者については,最長で2016(平成28)年2月末まで現行方式の賠償を継続するとしている。
「素案」では,それ以降の営業損害の賠償については明言していないが,「中間指針においては,…営業損害の賠償の期間については,『一定の限度がある』とも提示」「避難指示区域内の賠償期間である平成27年2月末を踏まえ…『新たな賠償』への切替えを検討」「一括して支払い」などの文言もあることから,基本的には,この「素案」で示された賠償方式による賠償の支払い後については,賠償を打ち切る方針を前提としているものと考えられる。
「素案」では,このような方針の前提となる現状認識として,「業種・地域によっては風評被害が残存する一方,統計データ等により収束傾向がみられる業種も存在」などと記載されている。しかし,この「素案」の根拠とされた「統計データ」について,2015(平成27)年2月9日の参議院決算委員会で答弁に立った岩井茂樹経済産業大臣政務官は「統計データが回復している場合でも個々の事情により賠償対象となる場合があり得ることや,また反対に,統計データが回復をしていない場合でも損害賠償対象ではない場合もあり得ると…慎重に対応をさせていただいている」などとして,データ自体を公表していない。
そもそも,原子力損害賠償紛争審査会が示した「中間指針第二次追補」においては,営業損害に係る賠償終期について「被害者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日」を賠償の終期とすることが明示されているところ,福島県商工会連合会の調べでは,避難指示区域内に所在した商工会会員の事業再開率は約53%,地元での事業再開率は約15%にとどまっており(2014(平成26)年1月20日現在),「被害者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能」な状況になどないことは明らかである。また,避難指示区域外においても,いわゆる「自主的避難」や風評被害の継続による商圏の縮小・喪失などが継続しており,「被害者が従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能」な状況は,一部にとどまっているにすぎない。こうした状況に照らせば,「素案」は,中間指針にも反し,被害者救済をないがしろにするものであって,許されないことは明らかである。
この「素案」に対し,福島県商工会連合会は,本年1月21日に,資源エネルギー庁及び東京電力に対し,営業損害賠償の継続を求める意見書を提出しており,また,福島県知事を会長とする福島県原子力損害対策協議会も,本年2月4日付で経済産業大臣・復興大臣及び東京電力に対して,「(素案は)到底納得できるものではない。…素案を見直し,被害の実態に見合った賠償を最後まで確実に行うべきである」との緊急要望を提出しているが,これらは,県内の被害事業者の実態を反映した切実なものである。にもかかわらず,経産省や東京電力は,これまで,「『素案』は現在も引き続き検討段階にあるということで,決して決まったものではない」などとして,素案の撤回には応じていない。このような「素案」が示されること自体,福島県内の事業者の生業再建への意欲をそぎ,その努力を水泡に帰すおそれがある。
そもそも,本件原発事故により明らかになったように,原発事故による被害は,地域汚染が続く限り継続するという性質を持っており,被害者が事故前と同等の生活や事故前の生業を回復するには長い期間を要する。原子力発電を国策として推進してきた国及び事業者である東京電力は,原発事故による被害の回復に責任を負うのであって,その責任を直視せず,このような「素案」の方針により賠償を拙速に収束させようとすることは,到底許されない。
よって,当会は,
① 経済産業省(資源エネルギー庁)及び東京電力に対し,「素案」を白紙撤回すること
② 東京電力に対し,少なくとも当面の間,従前の方式による営業損害の賠償を継続することを明言すること
③ 経済産業省(資源エネルギー庁)に対し,上記②を東京電力に対して強く指導すること
を求めるものである。

 2015(平成27)年2月21日
  福島県弁護士会
  会 長  笠 間 善 裕

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