司法修習生の給費制の存続を求める緊急会長声明
1. 司法修習生に給与を支給する制度(以下、「給費制」という)を廃止し、最高裁判所から希望する者に対し修習資金を貸与する制度(以下、「貸与制」という)を実施する2004年(平成16年)改正裁判所法の施行が、本年11月に迫っている。
2. 2004年(平成16年)改正に際しては「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が衆参両院で附帯決議された。
3. しかし、昨今の法科大学院生の実態に目を向ければ、学費および生活費による経済的負担の深刻さは明らかである。日弁連が2009年(平成21年)11月に新63期修習予定者に実施したアンケートによれば、回答数1528名中法科大学院在学時に奨学金や教育ローン(以下「奨学金等」という。)を利用したとする有効回答数は783名(51.2%)におよび、奨学金等の借入総額は平均約318万円、最高額は1200万円であった。
このような現状で、さらに修習資金償還という負債をも抱えることになれば、法曹志望者、ことに扶養家族を有する者や社会人からの転身を志す者などが「経済的事情から法曹への道を断念する事態」に陥ることが強く懸念される。
既に、法科大学院の社会人入学者は2008年度(平成20年度)の約48%から2010年度(平成22年度)には約30%にまで低下しており、貸与制の実施によってこの傾向に拍車がかかれば、法科大学院を通じて有為かつ多様な人材を法曹として迎えようとした司法改革の基本理念は、根幹から崩れることになろう。
また、“金持ちでなければ法曹にはなれない”社会が到来すれば、法曹の活動ひいては司法制度そのものに対する一般国民、とりわけ社会的弱者からの信頼が損なわれる結果につながりかねない。
4. 司法修習生は法曹として、国民の権利を守り、司法制度という国の基盤を支える公共的な役割を担うことが期待されている。だからこそ、司法修習生が将来の法曹として必要な研鑽に専念できるように国庫から給与が支給されてきたのであり、司法修習生は給費制を通じて、国民の期待に応えなければならないという自覚を強く促されてきた。
「司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり、受益と負担の観点からすれば必要な経費は修習生が負担すべきであること」を理由のひとつに挙げる貸与制のもとでは、このような公共的役割の自覚が十分培われるかは疑問であるし、そもそも、貸与制のもとで弁護士となった者については、貸与金返済という経済的動機に追われ、国選弁護、法律扶助事件、無料法律相談、公益的な社会的意義のある弁護団事件、各種の委員会活動等、種々の公益的活動から遠ざかることを余儀なくされる懸念もある。
5. 以上のような事情から、当会は、2009年(平成21年)11月10日に司法修習生の給費制の存続を求める会長声明を発したところであるが、今般、改正裁判所法の施行が目前に迫っている事態を踏まえ、有為かつ多様な人材に法曹への門戸が開かれ、公共的役割への高い意識をもった法曹が輩出される社会を維持するため、給費制の存続を、改めて強く求めるものである。
2010年(平成22年)06月08日
福島県弁護士会
会長 高橋 金一