死刑執行に対する会長声明
1. 2010年(平成22年)7月28日,東京拘置所において2名の男性の死刑が執行された。
2. 死刑については,死刑廃止条約が1989年(平成元年)12月15日の国連総会で採択され(1991年(平成3年)発行),1997年(平成9年)4月以降毎年,国連人権委員会(2006年(平成18年)国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行なった。そして,その決議の中で,日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに,死刑の完全な廃止を視野に入れ,死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけをしている。
このような状況下で,死刑廃止国は着実に増加し,1990年(平成2年)当時の死刑存置国が96カ国,死刑廃止国が80カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に対し,2007年(平成19年)12月24日現在,死刑存置国は62カ国,死刑廃止国は135カ国と死刑廃止が国際的潮流となっている。
そのような中,国連は,2007年(平成19年)5月18日,拷問禁止委員会の日本政府報告書による最終見解・勧告において,我が国の死刑制度の問題を端的に示し,死刑の執行を速やかに停止するべきことを勧告し,また同年12月18日には,国連総会本会議において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議を圧倒的多数で採択した。さらに2008年(平成20年)5月,国連人権理事会第2回普遍的定期的審査において,我が国における死刑執行の継続に対する懸念を表明し,日本政府に対し,死刑の停止を勧告している。
3. これに対して,我が国では,死刑と無期懲役(禁固)についての明確な判断基準がない状況で,近年厳罰化の傾向に拍車が掛かっている。
しかし,我が国の死刑確定事件のうち,4つの事件(免田,財田川,松山,島田事件)の再審無罪が確定し,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが,現在においても,上記事件に代表されるような誤判を生じるに至った制度上・運用上の問題については抜本的な改善が図られておらず,誤判の危険は以前存在したままである。
昨年5月には,裁判員裁判も始まり,国民各自も適正な量刑の判断をしなければならず,もはや死刑制度の問題点を論じることは国民レベルでも必要不可欠な状況となってきている。
4. 日本弁護士連合会は,2002年(平成14年)11月「死刑制度問題に関する提言」を発表し,死刑制度の存廃について国民的議論を尽くし,死刑制度に関する問題点を改善するまで,一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱し,2008年(平成20年)3月13日,理事会において,「死刑制度調査会の設置及び死刑執行の停止に関する法律(案)」(通称「日弁連死刑執行停止法案」)を承認し,引き続き死刑問題に関する取り組みを続けている。また,同連合会は,従来から死刑執行がされる都度,法務大臣に対し,死刑確定者に対する死刑執行の停止を要請し,近年,死刑執行が増加している中改めて非常に強く死刑執行の停止を要請しているのである。
今,我が国に求められているのは,死刑の執行を急ぐことではなく,死刑制度の存廃等を議論し,例えば死刑に代わる刑罰として終身刑の是非等を,開かれた場で議論することである。また,左記議論をするために,被執行者の氏名,受刑能力等の死刑制度全般に関する情報が広く公開されなければならないのは言うまでもない。
当会としても,日本弁護士連合会と同様,政府に対し,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし死刑制度に関する改善を行なうまで一定期間,死刑を停止するよう強く要請するものである。
2010年(平成22年)07月29日
福島県弁護士会
会長 高橋 金一