東京電力福島第一原子力発電所事故被害者の集団訴訟についての福島地裁判決を受けての会長声明
東京電力福島第一原子力発電所事故被害者の集団訴訟についての福島地裁判決を受 けての会長声明
2017(平成29)年10月10日、福島地方裁判所において、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の判決(以下、「本判決」という。)が言い渡された。本判決は、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「本件原発事故」という。)被害者による集団訴訟の判決としては、本年3月の前橋地裁判決、同9月の千葉地裁判決に続いて3件目となるものである。
本判決は、前橋地裁判決に続き、本件原発事故についての国の国家賠償法上の責任と東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東電」という。)の過失責任を認めた。本判決は、2002(平成14)年に文部科学省の地震調査研究推進本部が作成した、いわゆる「長期評価」に基づいて想定される津波は、当時の技術基準に照らして安全性評価の対象とされるべきであり、直ちにこれに基づくシミュレーションを行っていれば福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する可能性を予見でき、技術基準に適合しない状態となっていたとした上で、国が同年末までに適切に規制権限を行使し非常用電源設備の水密化等の安全確保対策を東電に命じていれば、本件事故は回避可能であったにもかかわらず、これを怠ったものであり、このような規制権限不行使は著しく合理性を欠いていたとして、国家賠償法上の責任を認めた。また、必要な津波対策を怠った東京電力についても、本件事故について過失があったと認めた。
本判決のこのような判示は、本件事故の原因と責任を明らかにし、本件事故のような惨事を二度と繰り返してほしくないという、福島県民をはじめとする被害者の願いに応えるものであるとともに、国の原子力安全規制のあり方にも警鐘を鳴らすものであると言える。
また、本判決は、被害者らの慰謝料請求に関しては、帰還困難区域や「自主的避難等対象区域」、福島県南地域の居住者など、福島県内(一部県外を含む)の広い地域について賠償の対象とし、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針等に基づく既払金に対する上積みを認めている点は評価できる。しかし、その一方で、それ以外の地域の被害者らについては、「中間指針等による賠償額を超える損害は認められない」などとして請求を棄却しており、賠償の認容額の水準についても、被害実態に見合うものであるかについては疑問と言わざるを得ない。
もっとも、本判決は、これまで中間指針等による賠償の対象とされてこなかった地域も含めた広い地域の住民について、個別事情を考慮せずに、中間指針等を上回る損害の存在を認め一律の賠償金を支払うことを命じており、これは、中間指針等の不十分性を明らかにしたものであり、今後の賠償のあり方に一石を投じたものと評価することができる。
本会は、本件原発事故の最大の被災地である福島県に所在する弁護士会として、本件原発事故の直後から、本件原発事故が「人災」であること、すなわち避けることのできた事故であることを指摘するとともに、被害者の救済のための政策提言を行ってきたが、本判決は、賠償水準等の点で不十分さはあるものの、事故原因を究明するとともに被害者の十全な救済のための施策の実現のための大きな一歩と言うことができる。本判決と同様に国の国賠法上の責任を認めた前橋地裁判決、結論的に国の責任は否定したものの、一部避難者に対する賠償の点では中間指針を上回る賠償を認めた千葉地裁判決に続いて、本判決が示されたことにより、国の原発安全規制の在り方や原発政策そのもの、そして、賠償指針等を根本的に見直す必要が浮き彫りになった。
本会は、国と東京電力に対し、本件事故及びその被害についての加害責任を自ら認めること、賠償はもとより環境回復等を含めた被害者の救済のために全力を尽くすことを求めるとともに、引き続き被害者の救済のために尽力することを表明する。
2017(平成29)年10月11日
福島県弁護士会
会長 渡 邊 真 也