避難指示等の解除等に伴い原発事故被害者の自由な選択を保障すること及び事故惹起にかかる国と東京電力の責任を踏まえた新たな支援施策を求める決議
避難指示等の解除等に伴い原発事故被害者の自由な選択を保障すること及び事故惹起にかかる国と東京電力の責任を踏まえた新たな支援施策を求める決議
東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という。)に伴い、避難指示等の対象となった地域では、多数の住民が長期間の避難生活を余儀なくされてきたが、2017(平成29)年3月末までに、いわゆる「帰還困難区域」を除く地域についての避難指示等の区域指定は基本的に解除され、解除された区域においては、徐々に住民が帰還しつつある。しかし、避難指示等の対象区域では、除染が行われてもなお本件原発事故以前の放射線量に回復しているわけではなく帰還した場合の健康リスクへの不安があるほか、避難期間の長期化に伴う地域の生活インフラや社会サービスの復旧が十分でない、帰還しても、すぐに原発事故前に従事していた生業が再開できるとは限らないなど、様々な困難があり、避難者が帰還を希望したとしても、すぐに帰還し、本件原発事故以前と同様の生活が成り立つという状況にはほど遠い。
当会は、2017(平成29)年9月下旬から同年10月上旬にかけて、避難指示等の解除がなされた区域の所在する浜通り3地域の訪問調査を行った(以下「当会調査」という。)。当会調査により、(1)避難指示解除により徐々に帰還者が増加していくものの、多数の避難住民がすぐに帰還するわけではなく、帰還してすぐに本件原発事故以前と同様の生活が成り立つ状況にはないこと、(2)実際に帰還した住民については、本件原発事故前と比較して高齢者の割合が高くなっており、本件原発事故及びその後の長期の避難が、いわば人為的に急激な高齢化をもたらしていること、(3)地域の復旧復興を進める人材が、公的セクターと民間セクターを問わず不足しており、地域復興の足かせとなっていること、(4)事業再開ができていない事業所等が多いなど、地域経済の復興もままならないことなど、様々な困難があるとともに、それらの困難が連関して、いわば一種の悪循環状況を作り出していることが明らかとなった。これらの困難に直面しているのは被害者だけではない。自治体そのものや自治体職員も同様に困難に直面し、その中でできる限りの努力を行っている。しかし、これらの困難は、各自治体や地域住民に、いわば理不尽に押しつけられたものであって、各自治体や地域住民らの努力のみによって解決することはできない。各自治体や地域住民に対する支援策の策定と着実な実行が求められる。
他方、近時においては原発事故被害者らが全国各地で提起している集団訴訟が相次いで第一審判決を迎えつつあり、2017(平成29)年には、3つの集団訴訟の第一審判決が言い渡された。同年3月17日の前橋地裁判決、及び同年10月10日の福島地裁判決(いわゆる「生業集団訴訟」判決)は、本件事故惹起に関する国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)の過失責任を認めた。同年9月22日の千葉地裁判決は、結論として国の過失責任は否定したが、予見可能性は認めた。このように、本件原発事故の加害者である国及び東京電力の本件事故惹起にかかる過失責任が、司法の場で明らかにされつつあるが、これは、被害者の救済や被害地域の復興について、真に責任を負うべき主体を明らかにするという意味で極めて重要であり、地域復興政策の立案・実行にも大きな影響を与えるものである。本件原発事故の後、国は、原子力損害賠償機構法・放射性物質汚染対処特措法・福島復興再生特措法・子ども被災者支援法(なお、法律の名称は略称を含む)などの新たな立法を行ったが、これらのいずれにおいても「国は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み…(各種の責務を負う)」という定型的表現がなされ、これらの法律の多くは「国が方針立案や費用負担を行うが、その実行については地方公共団体(ないし原子力事業者)が実施責任を負う」という制度設計がなされている。しかし、現在、司法の場で明らかにされつつあるのは、単に原子力政策を推進してきたことに伴う社会的道義的責任ではなく、事故を予見することができ、かつ、予見できた時点で適切な対策をとっていれば事故を防ぎ得たにもかかわらず、それを怠り、本件事故及び被害を惹起したという過失責任(法的責任)である。国の過失責任が司法の場で明らかとなりつつある今こそ、上記のような各種立法の制度設計を見直し、被害者の救済や被害地域の復興などについて、国が事故の加害者として、より直接的積極的に責任を果たすことが求められている。
上記事情を踏まえ、当会は、国に対し、
1 現在の避難指示等の解除や原子力損害賠償などのあり方が、被害者(避難者)に対して「帰還か移住か」の過酷な二者択一を事実上迫るものとなっていることを直視し、これを改め、被害者が、帰還・移住・長期待避等、いずれの意向であっても、被害者個人の意向を尊重し、それぞれの選択に応じて、一人一人が事故前と同様の生活を再建できるよう支援を行うこと、及びそのための政策パッケージを立案すること
2 ①原発事故被災自治体に対する職員定数基準等の弾力的運用を立法化するなどして、被災自治体が増大する業務量に見合った職員数を確保雇用できるようにすること、②地方交付税の重点配分などにより、結果として住民人口の減少した被災自治体に対しても十分な財源を確保すること、③本件原発事故についての自治体そのものの被害についての賠償基準を策定すること、また、被災者個人等に還元できない地域コミュニティの共有財・公共財についての賠償基準を策定し、個人等に代わって自治体がこの賠償を受領し、地域の復興や住民福祉の向上に利用できる仕組みづくりを行うなど、自治体そのものに対する積極的な支援を行うこと
3 本件原発事故の惹起についての法的責任を自覚し、原子力損害賠償審査会(原賠審)において、国の加害責任を前提とし、かつ、本件原発事故の被害の実態と特質を適切に踏まえた新たな賠償の指針を策定するとともに、原賠審の指針に基づく賠償を誠実に履行するよう東京電力に対する指導・監督を徹底することを求める。
また、当会は、東京電力に対し、
4 原賠審の指針に基づく賠償を誠実に履行するとともに、原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解案を尊重し迅速に賠償義務を履行することを求める。
2018(平成30)年2月24日
福 島 県 弁 護 士 会