ロシア連邦によるウクライナに対する軍事侵攻、特に原子力関連施設に対する攻撃等に抗議する会長声明
本年2月24日、ロシア連邦(以下「ロシア」という。)は、ウクライナに対し、軍事侵攻を開始した。現時点において、ウクライナの首都キエフ及びその近郊をはじめとする多数の都市に対する攻撃が行われ、ウクライナ在住の民間人にも死傷者が発生し、さらに300万人以上が国外避難を余儀なくされていることが確認されている。また、ロシア政府は、「抑止力の特別体制」をとることを述べて核兵器の使用を示唆し、さらにロシア軍は、1986年の爆発事故で損傷した原子炉等が封じ込められているチェルノブイリ原子力発電所(廃炉)、及び、ヨーロッパ最大かつ世界最大級の原発であるザポリージャ原子力発電所等の原子力関連施設に対しても攻撃・占領を行った。
このたびのロシアの軍事侵攻は武力行使及び武力による威嚇そのものであり、ウクライナの領土主権を侵害するというだけでなく、ウクライナに所在する市民の生命・身体・財産を現に侵害するものであって、決して許されない。
とりわけ、原子力発電所は、ダムや堤防などと並び、これに対する攻撃が危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすことから攻撃の対象としてはならないとジュネーヴ諸条約第1追加議定書56条1項に定められたものであり、その施設に対する攻撃を看過することはできない。
ひとたび原子力災害が発生すれば、最悪の場合には直ちに多数の者に対しその放出エネルギー及び放射線による死傷の結果をもたらすほか、極めて広大な範囲に、長期的かつ深刻な放射性物質による汚染被害を引き起こし、多数の市民が避難を余儀なくされ続けるという事態に至らしめるものである。ロシア政府の核攻撃の示唆、及び同国軍隊の原子力関連施設に対する諸行為は、ウクライナ所在の市民はもちろんのこと、ロシア国民を含む全世界の市民を、戦争による核兵器の使用及び原子力関連施設の破壊による深刻な被害の恐怖にさらすものである。
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の最大の被災地である福島県において活動する弁護士の団体として、当会は、かつてチェルノブイリ原発事故による惨禍に見舞われたウクライナの地で、人間の手により故意にこのような危険が惹起されることを、絶対に容認できない。
戦争は最大の人権侵害である。われら日本国民は、全ての基本的人権の前提として、「全世界の国民が恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を有していることを憲法前文において確認しているところ、今般のロシア政府及び同国軍隊の軍事行動並びにこれに伴う核攻撃の示唆及び原子力関連施設に対する攻撃・占領など一連の行為は、ウクライナ市民の生命等を現に侵害し、かつ、全世界の市民を戦争の惨禍並びに核兵器の使用及び原子力関連施設の破壊による深刻な被害の恐怖にさらすものであり、平和的に生存する権利を侵すものにほかならない。
当会は、かかる行動・行為に至ったロシア政府及び同国軍隊に対し、最大限の抗議の意を表明し、これらの即時かつ無条件の中止を求める。
2022年(令和4年)3月17日
福島県弁護士会
会長 吉 津 健 三