犯罪被害者等に対する支援の充実の早期実現を求める決議
犯罪被害者等に対する支援の充実の早期実現を求める決議
1 犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号、以下「基本法」という。)の制定から20年を迎えようとしている。
国及び地方公共団体は、基本法に基づき、犯罪被害者等の支援に関する責務を負うが、現状は、国及び福島県において、犯罪被害者等の支援制度が十分に確立されたとは言い難い。
2 国は、犯罪被害者等が、その受けた被害を回復し、又は軽減し、再び平穏な生活を営むことができるような「犯罪被害者等のための施策」(基本法2条3項)を総合的に策定・実施する責務を負うところ(基本法4条)、政府は、基本法8条に基づき四次にわたる犯罪被害者等基本計画を定め、刑事和解制度や損害賠償命令制度を創設し、犯罪被害給付制度を改正する等、犯罪被害者等の経済的被害の回復に関する一定の前進は見られた。
しかし、犯罪被害者等の経済的被害の回復が第一義的に責任を負う加害者により十分になされることは期待できず、国による犯罪被害者等給付金によっても、犯罪被害者等の経済的被害の回復が十分なされているとはいえない。
この点、日本弁護士連合会は2023年(令和5年)3月16日付「犯罪被害者等補償法制定を求める意見書」を発出し、①加害者に対する損害賠償請求により債務名義を取得した被害者等への国による損害賠償金の立替払制度及び②加害者に対して債務名義を取得することができない被害者等への補償制度を柱とする「犯罪被害者等補償法」の制定を求めている。
また、現在、法務省において、犯罪被害者等の被害回復のため、弁護士による早期の段階からの継続的かつ包括的支援及びこれに対する経済的援助が必要であるとの認識が示され、「犯罪被害者支援弁護士制度」の導入が検討されている。犯罪被害者等の個々の状況に応じ、犯罪被害者等の誰もが弁護士にアクセスできる制度とすべく、生命・身体・財産に対する犯罪を幅広く対象とした上で、利用者に費用負担を求めない「犯罪被害者支援弁護士制度」を創設すべきである。当会としては、国に対し、犯罪被害者等の経済的支援の充実を目的とする「犯罪被害者等補償法」を制定し、弁護士による犯罪被害者等への早期の支援を可能にする「犯罪被害者支援弁護士制度」の実現を求める。
3 地方公共団体は、犯罪被害者等の支援等に関し、国との役割分担を踏まえて、「その地方公共団体の地域の状況に応じた施策」を策定・実施する責務を負っている(基本法5条)。令和5年度版犯罪白書によれば、2023年(令和5年)4月1日現在、都道府県46団体、指定都市13団体、市区町村(指定都市を除く)606団体が犯罪被害者等の支援を目的とした条例を制定し、このうち秋田、宮城、栃木、岐阜、京都、奈良、兵庫、岡山、大分、佐賀、長崎の各府県では全市町村が条例を制定している。
福島県は、2021年(令和3年)10月12日、「福島県犯罪被害者等支援条例」を制定し、2022年(令和4年)3月、「福島県犯罪被害者等支援計画」を策定したが、県内の市町村のうち犯罪被害者等の支援を目的とした条例を制定したのは、本日現在においても県内59市町村のうち17市町村にとどまり、条例制定には至らないものの見舞金等制度を創設した市町村も4市町村にすぎず、見舞金等制度をはじめとした犯罪被害者等の支援が県内に行き渡っているとは到底いえない状況である。
4 当会では、犯罪被害者等の支援制度として、日本司法支援センター福島事務所から犯罪被害者等支援に精通した弁護士の紹介依頼があった際に当会会員を紹介するための精通弁護士名簿を作成し、公益社団法人ふくしま被害者支援センターからの相談依頼があった場合にも対応することとしている。また、福島地方検察庁からの犯罪被害者支援要請対応名簿の運用を開始し、具体的事件において犯罪被害者と直接接する検察官により弁護士による犯罪被害者等の支援の必要性があると判断された事案では、速やかに弁護士による支援が可能な体制を構築している。
しかしながら、犯罪被害者等が被害に遭った初期の段階で相談に訪れるのは 警察署であることが多いと推察されるものの、当会では、福島県警察本部警務部県民サービス課犯罪被害者支援室からの直接の相談依頼を受け入れる体制が構築されていない。
当会としては、関係機関との連携体制の強化を図るとともに、犯罪被害者等に対する早期の支援の必要性に鑑み、上記犯罪被害者支援室との連携体制を構築する所存である。
5 当会は、犯罪被害者等の支援に関する国、福島県、福島県内の市町村及び当会の上記の状況を踏まえ、以下のとおり決議する。
記
⑴ 国に対し、犯罪被害者等補償法の制定、犯罪被害者支援弁護士制度の創設をはじめとする実効性のある犯罪被害者等の支援体制を確立することを求める。
⑵ 福島県に対し、県内の犯罪被害者等支援条例の制定未了の各自治体に対する条例制定のための必要な協力体制の構築を求める。
⑶ 福島県内の犯罪被害者等支援条例の制定未了の各自治体に対し、犯罪被害者等支援条例の早期制定を求める。
⑷ 当会は、関係機関と連携を強化・構築し、犯罪被害者等の支援の充実のための取り組みを推進する。
2023年(令和5年)11月25日
福島県弁護士会
提 案 理 由
1 犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族(以下「犯罪被害者等」という。)は、犯罪による直接の被害のみならず、その後の精神的・経済的被害、SNS等における誹謗中傷などの二次被害に苦しめられる。誰もが突如として犯罪被害者等になる可能性がある以上、犯罪被害者等に寄り添った経済的・精神的・医療的な支援体制を社会全体として確立することが求められている。
国及び地方公共団体は、基本法に基づき、犯罪被害者等の支援に関する責務を負うが、現状は、国及び福島県において、犯罪被害者等の支援制度が十分に確立されたとは言い難い。
2 国は、犯罪被害者等が、その受けた被害を回復し、又は軽減し、再び平穏な生活を営むことができるような「犯罪被害者等のための施策」(基本法2条3項)を総合的に策定・実施する責務を負うところ(基本法4条)、政府は、基本法8条に基づき四次にわたる犯罪被害者等基本計画を定め、刑事和解制度や損害賠償命令制度を創設し、犯罪被害給付制度を改正する等、犯罪被害者等の経済的被害の回復に関する一定の前進は見られた。
しかし、犯罪被害者等の経済的被害の回復が第一義的に責任を負う加害者により十分になされることは期待できず、国による犯罪被害者等給付金によっても、犯罪被害者等の経済的被害の回復が十分なされているとはいえない。犯罪被害者等は被害により突如として経済的・精神的負担を負うこととなるが、これを回復するため犯罪被害者等に更なる負担を負わせざるを得ない制度では、真に犯罪被害者等を支援しているものとはいえない。
この点、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は2023年(令和5年)3月16日付「犯罪被害者等補償法制定を求める意見書」を発出し、①加害者に対する損害賠償請求により債務名義を取得した被害者等への国による損害賠償金の立替払制度及び②加害者に対して債務名義を取得することができない被害者等への補償制度を柱とする「犯罪被害者等補償法」の制定を求めているところ、同法が制定されることにより、これまで以上に犯罪被害者等の経済的被害の回復が図られることとなる。
日弁連の意見書を受けて、日弁連犯罪被害者支援委員会は、2023年(令和5年)8月7日にシンポジウムを開催し、意見書についての講義、犯罪被害者からの事例報告及びパネルディスカッションが行われた。上記シンポジウムを通じて、犯罪被害者等補償法の必要性についての理解が深まった。
3 また、犯罪被害者等の支援の制度として、国、地方公共団体のほか、各地方検察庁や都道府県警察、民間団体による諸々の支援体制が構築されているが、弁護士が被害発生の早期の時点で犯罪被害者等に寄り添い、犯罪被害者等が置かれている時期や状況に応じて適切な支援につなげる役割を果たすべきである。弁護士には、犯罪被害者等の代理人として窓口に立ち、犯罪被害者等への二次被害を防止する環境を構築する役割が期待され、日弁連は2019年(令和元年)11月22日付で「国費による犯罪被害者支援弁護士制度の導入を求める意見書」を発出している。
この点、現在、法務省において、犯罪被害者等の被害回復のため、弁護士による早期の段階からの継続的かつ包括的支援及びこれに対する経済的援助が必要であるとの認識が示され、「犯罪被害者支援弁護士制度」の導入が検討されている。内閣総理大臣が会長を務める犯罪被害者等施策推進会議においては、2023年(令和5年)6月、他の重要施策とともに、「犯罪被害者支援弁護士制度」の導入についても1年以内を目処に結論を出すこととされたところであるが、犯罪被害者等の個々の状況に応じ、犯罪被害者等の誰もが弁護士にアクセスできる制度とすべく、生命・身体・財産に対する犯罪を幅広く対象とした上で、利用者に費用負担を求めない「犯罪被害者支援弁護士制度」を創設すべきである。
4 地方公共団体は、犯罪被害者等の支援等に関し、国との役割分担を踏まえて、「その地方公共団体の地域の状況に応じた施策」を策定・実施する責務を負っている(基本法5条)。令和5年度版犯罪白書によれば、2023年(令和5年)4月1日現在、都道府県46団体、指定都市13団体、市区町村(指定都市を除く)606団体が犯罪被害者等の支援を目的とした条例を制定し、このうち秋田、宮城、栃木、岐阜、京都、奈良、兵庫、岡山、大分、佐賀、長崎の各府県では全市町村が条例を制定している。
福島県は、2021年(令和3年)10月12日、「福島県犯罪被害者等支援条例」を制定し、2022年(令和4年)3月、「福島県犯罪被害者等支援計画」を策定した。
本県の条例は、市町村の条例で定められている見舞金の半額を補助するという内容になっており、実際には市町村の条例が存在しなければ、県から犯罪被害者に対する実効的な経済的支援が行われない。
県内の市町村のうち犯罪被害者等の支援を目的とした条例を制定したのは、本日現在においても県内59市町村のうち17市町村にとどまり、条例制定には至らないものの見舞金等制度を創設した市町村も4市町村にすぎず、見舞金等制度をはじめとした犯罪被害者等の支援が県内に行き渡っているとは到底いえない状況である。
市町村は、犯罪被害者等との距離が最も近く、犯罪被害者等の個別具体的な事情に配慮しうる地方公共団体であるが、このような状況では、福島県内において犯罪被害者等の支援が充実しているなどとは到底いえず、福島県内の全ての市町村における犯罪被害者等支援条例の制定は急務である。
福島県は、前述した本県の条例の見舞金等制度について、県下の市町村に周知し、市町村の条例制定のために必要な協力体制を構築すべきである。
5 当会では、犯罪被害者等の支援制度として、日本司法支援センター福島事務所から犯罪被害者等支援に精通した弁護士の紹介依頼があった際に当会会員を紹介するための精通弁護士名簿を作成し、公益社団法人ふくしま被害者支援センターからの相談依頼があった場合にも対応することとしている。また、2021年(令和3年)4月より、福島地方検察庁からの犯罪被害者支援要請対応名簿の運用を開始し、具体的事件において犯罪被害者と直接接する検察官により弁護士による犯罪被害者等の支援の必要性があると判断された事案では、速やかに弁護士による支援が可能な体制を構築している。
しかしながら、犯罪被害者等が被害に遭った初期の段階で相談に訪れるのは警察署であることが多いと推察されるものの、当会では、福島県警察本部警務部県民サービス課犯罪被害者支援室からの直接の相談依頼を受け入れる体制が構築されていない。
当会としては、関係機関との連携体制の強化を図るとともに、犯罪被害者等に対する早期の支援の必要性に鑑み、上記犯罪被害者支援室との連携体制を構築する所存である。
以上