いわゆる「反撃能力」の保有と行使の準備に強く反対する声明
いわゆる「反撃能力」の保有と行使の準備に強く反対する声明
1 政府は、2022年(令和4年)12月、国の安全保障に関する「国家安全保障戦略」等のいわゆる「安保三文書」を閣議決定し、相手国の領域にあるミサイル発射手段等を攻撃するためのいわゆる「反撃能力」の保有を進めるとした。そして、「反撃能力」の保有のために、今年度から5年間にわたって、巡航ミサイルや長距離弾道弾等の配備などを実行しようとしており、その一環としての長射程巡航ミサイルトマホークの購入等を進めていることが報道されている。
2 しかし、「反撃能力」の保有は、従来の政府解釈に基づいても、憲法9条に反する。従来の政府解釈においては、自衛権の保有及び発動は憲法9条には反しないものの、無制限に認められるものではなく、わが国が他国からの武力攻撃を受けた場合で、他に適当な手段が存在しないときに、他国からの武力攻撃をわが国の領域から排除するための必要最小限度の範囲でのみ認められるとしてきた(「専守防衛」)。ところが、「反撃能力」を行使する場合、わが国の領域内にとどまらず、他国の領域にある基地等に対して武力行使をすることとなる。また、相手国がわが国や「わが国と密接な関係にある他国」に対する武力行使に着手したことを正確に把握することは困難であるため、事実上の先制攻撃となってしまうおそれも存在する。さらに、「反撃能力」のための攻撃兵器は、他国の領域に直接的な武力攻撃を行うことが可能であり、自衛のための必要最小限度の範囲を超えた「戦力」の保持に該当する。
以上の点から、「反撃能力」の保有及び行使は、従来の政府解釈の下においても、自衛権発動の要件である「専守防衛」の範囲を明らかに逸脱し、憲法9条2項の禁止する「戦力」に該当するため、憲法9条に違反するものである。また、相手国の領域内にある基地等を直接攻撃可能な兵器等をわが国が保有した場合、相手国における軍事力拡大を招くこととなりかねず、際限なき軍拡競争に陥る危険すら存在する。
3 わが国においては、集団的自衛権の行使を容認する、いわゆる安全保障法制が施行されている。安全保障法制とその下での集団的自衛権の行使については、当会はかねてから、くり返し違憲性を指摘してきたところであるが、安全保障法制の下では、わが国に対する武力攻撃が現に発生していなくても、「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合、「反撃能力」が行使されることになり得る。これは、わが国に対する武力攻撃への「着手」すらない段階で、相手国の領域に対する攻撃をするものであり、これが「専守防衛」を逸脱し憲法9条に違反することは明白である。
そして、このような重大な憲法違反であることが明白な「反撃能力」について、国権の最高機関である国会の議論及び主権者である国民の討議と理解を十分に経ることなくその保有及び行使の準備が進められることは、日本国憲法96条の定める憲法改正手続(すなわち各議院の総議員の3分の2以上の賛成による国会の発議と国民投票での過半数の賛成による承認)を回避して実質的に憲法改正と同様の効果をもたらそうとするものであり、立憲主義及び国民主権をないがしろにするものといわなければならない。
4 よって、当会は、日本国憲法の基本理念である恒久平和主義、立憲主義及び国民主権を堅持する立場から、政府による安保三文書の閣議決定に抗議するとともに、わが国が「反撃能力」を保有すること及びその行使の準備をすることに対し、強く反対するものである。
2024年(令和6年)1月16日
福島県弁護士会
会長 町 田 敦