東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から13年を迎えるにあたって
東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故から13年を迎えるにあたっての会長談話
本日、2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「原発事故」という。)から13年を迎えた。東日本大震災及び原発事故による犠牲者にあらためて哀悼の意を表するとともに、今なお引き続く被災者・被害者の苦しみにお見舞いを申し上げる次第である。
また、本年1月1日にも、令和6年能登半島地震が発生し、多くの人命が失われ多数の方が住家を失うなど被災されている。当会は、1月16日付で会長談話を発出し、東日本大震災及び原発事故の経験と教訓を踏まえた被災者の救助・支援を求めたところであるが、改めて、犠牲となった方に対し哀悼の意を表し、被災者の方に心よりお見舞いを申し上げるものである。
能登半島に所在する北陸電力志賀原子力発電所(以下、「志賀原発」という。)は、令和6年能登半島地震発生時稼働を停止していたが、設置時の想定を上回る地震動に見舞われ、複数のアクシデントが発生したとのことである。13年前、原発事故を目の当たりにした我々も戦慄を禁じ得なかった。今後、能登半島地震により志賀原発で生じた事象についての詳細かつ正確な情報公開と分析が速やかに行われること、そして志賀原発の再稼働審査にあたっては、万が一にも事故を生じさせることのないよう原子力規制委員会が、多角的かつ慎重な審査を行い、特に避難体制については能登半島地震による地域の状況を踏まえ、付近住民の生命と健康を守り切ることを何よりも優先して審査することを望む。
翻って東日本大震災及び原発事故に関しても復興途上との感を禁じ得ない。昨年開始されたALPS処理汚染水の海洋放出が、新たな風評被害発生の懸念や県内世論の分断をもたらしていることにも見られるように、13年もの長き歳月が経過してもなお、被災者・被害者に新たな苦しみを与えているのである。
原発事故の損害賠償についても、いまだに多くの課題が山積している。原子力損害賠償紛争審査会が策定した、いわゆる中間指針第五次追補を踏まえた東京電力による追加賠償は、昨年より請求受付や支払が開始されているが、追加賠償の対象となる約148万人に対し、東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」という。)が昨年11月末時点で支払が完了したとしているのは約64万人に過ぎず、また請求受付人数も約92万人にとどまっている。原発事故から10年以上が経過し、転居などの事情により請求書の送付が困難になっている被害者が相当数存在することを考えても、賠償の遅延は明らかである。東京電力に対して、賠償事務にあたる体制や広報の強化等を求めるとともに、国に対し、東京電力による追加賠償の支払状況を監視し、必要に応じた指導等を行うよう求めたい。
また、原発事故の国家賠償訴訟においては、一昨年6月17日の最高裁判決以降、後続訴訟において、原発事故についての国の責任を否定する判決が相次いでいるが、安易に同最高裁判決に追随したものとの疑問を拭えないところである。同最高裁判決は、敷地高を上回る津波の予見可能性や国の規制権限不行使の違法性についての判断や、いかなる対策が講じられるべきであったかについての規範的判断を回避し、試算された津波に対する防潮堤では実際の津波を防げなかったと考えられるという机上の論理で国の責任を否定したものであり、訴訟当事者をはじめとする原発事故被害者をして納得せしめるものとは言いがたい。これらの下級審判決に対しては上告等の手続がなされ、現時点で最高裁に係属または係属見込みのものが複数あるが、最高裁には、今後あらためて原発事故についての国の責任に関して十分な審理を行うことを求めたい。
当会は、東日本大震災及び原発事故から13年を迎える本日、被災者・被害者一人ひとりの「人間の復興」を目指し、支援を継続していく決意を改めて表明するものである。
2024年(令和6年)3月11日
福島県弁護士会
会長 町 田 敦