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最低賃金の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

最低賃金の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明

 最低賃金額の保障は、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに国民経済の健全な発展に寄与することを目的とし(最低賃金法1条)、これは、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)及び「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの」(労働基準法1条)であることを保障する意義を有する。
 福島地方最低賃金審議会は、2023年(令和5年)8月、福島労働局長に対し、本県の地域別最低賃金について時給900円に引き上げるようを答申し、同年10月からこれが適用されている。これは、中央最低賃金審議会の示した引上げ目安を上回るものであり、目安にとらわれず物価高騰による生活への影響などを考慮した増額が実現したこと自体は評価されるべきである。
 もっとも、時給900円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約15万6000円、年収約182万円にしかならない。本県の地域別最低賃金額はこの10年で211円の上昇をしたものであるが、それ以上に物価の上昇は深刻である。とりわけ2023年(令和5年)の消費者物価指数の総合指数は前年比で3.2%も上昇しており、最近の極端な円安もあり、今後も物価の上昇はとどまる様子はない。
 このような物価高騰の前では、昨今の最低賃金額の引上げをもってしても、憲法25条の定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の保障及び最低賃金法1条が定める「労働者の生活の安定」が達成されているとはいいがたい。本県においても物価の上昇の影響が大きいことを考えれば、「労働者の生活の安定」を図るために物価上昇率に見合った最低賃金の引上げを継続することが不可欠である。
 また、中央最低賃金審議会は、昨年度、最低賃金額の地域間格差を解消することを目的として、全国各都道府県をAからDの4段階に分け、そのランク毎に引上額の目安を呈示していた方法を改め、これをAからCの3段階とした。しかし、結果としては、本県の地域別最低賃金額である時給900円と地域別最低賃金が最も高い東京都の時給1113円との差は213円となっており、地域間格差は全く解消されていない。
 最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済の停滞要因ともなっている。都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 ところで、地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、近時の調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
 一方で、最低賃金の大幅な引上げによる中小企業における経営への影響の問題を軽視することはできないが、最低賃金の引上げによる労働者等の生活の安定は地域経済の活性化につながるものであり、中小企業における経営への影響の問題は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法の積極的運用等その他中小企業支援策を行うことにより解消すべきである。
 以上を踏まえ、当会は、引き続き国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、中央最低賃金審議会及び福島地方最低賃金審議会に対し、福島県地域別最低賃金の大幅な引上げを求め、また、中央最低賃金審議会に対し、地域間格差の抜本是正のため、全国一律の最低賃金の確立を目指し、全国全ての地域において最低賃金大幅引上げと地域間格差の大幅縮小を実現する答申を行うべきことを求めるものである。

2024年(令和6年)6月12日
福島県弁護士会
会 長  鈴木 靖裕

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