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福島県内の全ての市町村における犯罪被害者等支援に特化した条例の制定及びその実効的運用を求める決議

福島県内の全ての市町村における犯罪被害者等支援に特化した条例の制定及びその実効的運用を求める決議

 

1 国及び福島県における犯罪被害者等の支援の動き

犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族(以下、「犯罪被害者等」という。)の権利利益の保護の必要性が社会全体で共有されるようになって久しい。

国においては、平成16年、犯罪被害者等基本法が制定され、地方公共団体その他の関係機関は相互に連携協力しなければならないとする(同法7条)。

福島県においては、令和4年4月1日、福島県犯罪被害者等支援条例が施行され、また、同年3月に定められた福島県犯罪被害者等支援計画では、犯罪被害者等の個人としての尊厳の尊重のほか、犯罪被害者等の事情に応じた適切な支援、途切れることのない必要な支援の提供を基本方針とし、市町村における支援体制の充実に向けた取組として、市町村における条例の制定を促進するとともに、「犯罪被害者ハンドブック」の改定をはじめ、市町村における支援体制の充実及び連携の強化を図るものとされた。

 

2 福島県内の市町村における犯罪被害者等支援の現状

令和7年1月1日現在、福島県内において、犯罪被害者等の支援を目的とした条例(以下、「特化条例」という。専ら犯罪被害者等の支援に関する事項について定めた条例をいい、安全で安心なまちづくりの推進に関する条例のように、条例の一部に犯罪被害者等施策が盛り込まれているものは含まず、見舞金支給のみを目的とした条例も除外される。)を制定した市町村は59市町村のうち53%にとどまる。

国や福島県が犯罪被害者等の支援のために関係機関との連携協力が必要不可欠であるとの認識を共有しているとしても、福島県内の市町村における特化条例の制定率がこれほどまでに低い状況では、犯罪被害者等の支援体制や関係機関の連携体制が構築されたものとはいえないことは火を見るよりも明らかである。

 

3 特化条例の重要性

⑴ 市町村が特化条例を制定する意義

住民である犯罪被害者等にとって、市町村が最も身近な地方公共団体であることから、市町村には、第一次的な相談窓口としての役割をはじめ、犯罪被害者等に寄り添った個別具体的な支援を実施することが求められる。

市町村には、住宅の確保、雇用支援、家事・育児・介護などの衣食住に関わるきめ細やかな直接支援、保険・医療の分野での支援など、犯罪被害者等のためにできることは極めて多い。

市町村が特化条例を設けることにより、犯罪被害者等の支援についての市町村の責務や支援内容が明確となり、市町村内における複数の関係部署による横断的な連携が促進され、犯罪被害者等に対する計画的かつ継続的な支援が可能となる。

何より、市町村が特化条例を設け、犯罪被害者等の支援を表明することにより、住民にとって犯罪被害者等の支援の重要性を他人事ではなく自分事として考える契機となりうる。

⑵ 市町村の職員に対する支援

犯罪被害者等の支援活動に従事する者は、犯罪被害者等の状況に接し、ときには犯罪被害者等の感情の表出に直面することによって、極めて強いストレスを受ける場合(以下、「二次受傷」という。)がある。

市町村が犯罪被害者等にとって第一次的な相談窓口の役割を果たすことが求められるのであれば、犯罪被害者等の二次被害の発生を防止することだけではなく、同時に、犯罪被害者等に直接対応する自治体職員の二次受傷の防止を図るため、自治体職員を対象とする二次受傷に関する研修や相談、支援体制の構築が必要である。

犯罪被害者等だけでなく、犯罪被害者等の支援活動に従事する自治体職員一人ひとりを支える体制の構築は、犯罪被害者等の支援を推進するために必要不可欠である。市町村が特化条例を設けることにより、自治体職員への二次受傷防止の体制も構築可能となり、犯罪被害者等支援の実効性が確保できる。

⑶ 福島県による犯罪被害者等見舞金補助事業の利用

福島県は、市町村が犯罪被害者等に対して見舞金や転居費用を支給した場合、その費用の一部を補助する給付金制度である犯罪被害者等見舞金補助事業を行っている。

しかし、当該事業は、市町村が見舞金や転居費用を支給したことが同補助事業を利用する要件とされており、見舞金や転居費用を支給する制度がない市町村は同補助事業を利用することができない仕組みとなっている。

もとより、見舞金等の経済的援助だけが犯罪被害者等支援ではない。見舞金制度を要綱で定めるだけでなく、特化条例により、経済的支援も含めた総合的な犯罪被害者等支援を進める必要がある。

福島県は、犯罪被害者等見舞金補助事業を県全体に拡げることを視野に入れ、市町村に対し、モデル条例等を示すなど、より積極的に特化条例制定の必要性を説明し働きかけるべきである。

 

4 まとめ

犯罪被害者等の支援の枠組みの中で、犯罪被害者等が日々の生活で関わる機会の多い市町村が果たす役割は極めて大きい。そのため、福島県内におけるすべての市町村において特化条例を定め、犯罪被害者等の支援について連携体制を構築し、犯罪被害者等に寄り添った社会を目指していかなければならない。

当会としては、犯罪被害者等の法的課題の解決をはじめとする支援だけでなく、引き続き、福島県及び福島県内の全ての市町村をはじめ犯罪被害者等の支援に携わる関係機関との連携体制の強化を図る所存である。

当会は、2023年(令和5年)11月25日開催の令和5年度福島県弁護士会臨時総会での「犯罪被害者等に対する支援の充実の早期実現を求める決議」において、犯罪被害者等の支援の充実について決議しているところ、再度、全ての市町村において特化条例が制定されることの意義を指摘し、犯罪被害者等の支援体制をさらに充実させるべく、以下のとおり決議する。

 

当会は、

1 犯罪被害者等の支援を目的とした条例を制定していない市町村に対し、犯罪被害者等の支援を目的とした条例の早期制定を求める。

2 全ての市町村に対し、犯罪被害者等の支援の更なる充実のほか、犯罪被害者等の支援活動に従事する者の二次受傷を防止する措置を講じることを求める。

3 福島県に対し、全ての市町村において犯罪被害者等の支援を目的とした条例の制定及び犯罪被害者等見舞金補助事業の利用をはじめとする犯罪被害者等の支援制度を構築するよう積極的に働きかけることを求める。

以上

 

2025年(令和7年)2月28日

福島県弁護士会

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